阿佐ヶ谷にもく落語(上・春風亭一花「祇園祭」)

阿佐ヶ谷を勝手に第3の故郷に決めたでっち定吉です。
第2の故郷は亀戸です。

またしてもコーヒー豆を買いに阿佐ヶ谷へ。
今回の落語会は北口。
エンゼルウイングという足もみのお店が、定休日の第2木曜に落語を開催している。しかも日に2回。
今回は古今亭志ん松、春風亭一花二人会である。
朝11時からの部へ。
場所は以前、たまたま見つけていた。

2,000円するから安くはないが、通常営業と同様にキャッシュレス決済させてくれて感激ひとしお。
しかもPayPayでなくタッチ決済可能。

狭い会場に器用に高座を設えてある。
お客はギリつ離れ。
月1回のため、初めての人が毎回いる様子。常連が偉そうにしているような空気が微塵もなく、居心地いい。
一番後ろに施術用のベッドを置き、これは桟敷だそうな。

開演前の主催者ご挨拶によると、この朝の部は一花さんが2席。
ご挨拶も、ムダにベラベラ喋るようなものでなく、手短でいい感じ。
主催者挨拶の長い落語会も世には多いようだが、行く気にならぬ。

祇園祭 一花
締め込み 志ん松
(仲入り)
子別れ 一花

ネタ帳を公開していて、「祇園祭」でなく「祇園会」、「子別れ」でなく「子は鎹」とありました。
一朝師は祇園会でやっているか。
なんとなくだが、一花さんの一席には「祭」を入れたい。

一花さんは久々、かと思ったら半年振りで、それほどでもない。
久々のイメージがあるのは、一花さん目当てで神田連雀亭に集う年寄りがなんだかイヤで、このところ気持ち避け気味だったから。
演者についてはぜんぜん避けてない。売れっ子だからこうしてよそでも聴けるのであった。

今日は志ん松アニさんとの会で。
お世話になってますけど、芸歴がかなり違うので、そんなに一緒にならないんですよ。
一緒の機会を与えてくださったこの会に感謝です。
志ん松アニさん、実は男前で。あまりそういう評判はないですけど、お囃子のおねえさん方には人気です。
かくいう私は中井貴一です。地上波なら大人気の会ですね。

私はこう見えて江戸っ子で。台東区浅草橋の生まれです。
江戸っ子には、祭りのために生きている人というのがいるんですよ。うちの父なんですけど。
地元の鳥越祭は結構荒っぽくて、祭りの翌日シャッターが血まみれということもあります。いえ、ほんとです。
小さい頃私も祭りが楽しみで。子どもたちは危ないので、塀の上やクルマの屋根から祭りを見てました。
祭りには、あちら系の方とか、よその人が紛れ込んできます。町内の参加者はみな法被を着てますが、部外者には法被がありません。
でも、ふんどし一丁で紛れ込むんです。
法被を着てると、不作法があったときに差配人につまみ出されますが、裸だと掴むところがありません。しかも頭の毛もツルツルにしています。
そんな江戸っ子のお話です。

昔の江戸っ子はお伊勢参りをして、そのあと京おおざかへ繰り込むのが一生の夢だったそうで。
気の合った3人組が旅をします。

三人旅かと思ったら、祇園祭だった。一朝師匠がやるんだったかなと聴きながら思い出す。
落語研究会で古今亭菊丸師が掛けていたのはよく聴いた。

三人組のアニイ分、弟分ふたりがやってくるのをお茶屋で待っているが、なかなか来ないので一杯始めると、隣にいる京男に酒を勧められ、話をする。
だがこの男、「王城の地」京じまんばかりして、江戸を馬鹿にする。武蔵の国の江戸やのうて、むさい国のへどじゃなと。
江戸っ子は面白くないから反撃する。

このネタをマクラ含め15分でやっていた。さてはこれでNHKを獲るつもりだな。
ひとのいい一花さんの祇園祭は実に面白い。なにしろ、嫌味な京男の江戸disりが、不愉快じゃない。
なのに、男がしなくていい嫌味を言い放っている事実は客にはちゃんと伝わる。
ナチュラルに愉快な男である。そして江戸のおアニイさんを怒らせるに十分なカラス笑いを繰り返すのが、実に楽しいのだった。

片棒でおなじみ、「ぴーひーひゃいとろとーひゅーひゃー」の口鳴り物も入り、実に難しい噺。
さすが笛吹きの一花さんは、絶妙のグルーヴ感。
上方ことばが上手いのも根っこは一緒。
そして江戸っ子の啖呵。
女性が演じていても違和感ゼロ。桂二葉さんと同様、性別を感じさせない落語の完成形である。
「女性のわりに啖呵が上手い」とか、そんなこといちいち考えないものな。
以前、ある女流が「三方一両損」を掛けたのが違和感満載だったことを後になって思い出す。

一花さん自身が、祭りが好きで仕方ないのも伝わってくる。
やっぱり江戸っ子なんですなあ。
なんだか江戸っ子の歴史に感激し、いささか涙腺が緩みかけた。トリの子別れじゃなく、なぜこの噺で涙腺が緩む?
でも本当に、そんな不思議な感じだったのです。
江戸の祭り自慢に、三社祭、神田祭と並んで鳥越祭も登場。

この噺、散々京に対抗して江戸自慢を繰り広げるのに、最後「首が落ちらア」と自虐で落とすところがいいなと思う。

一席目から実に楽しいのでした。
続きます。

 

作成者: でっち定吉

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4件のコメント

  1. 一花さんの祇園会は私も聞いて、すごくいい気持ちになったことがあります。定吉さん言われるように彼女の江戸っ子がすごくナチュラルで気持ちよく聞けたからと。
    私もにもく落語で以前一花・馬久のセットで聞きましたが、彼女って聞くたびに進化してるような。大好きな噺家さんです。

    1. ご賛同いただけましてよかったです。
      本質的には、面白くてもイヤな噺なんだと思ってましたけども、間違いでした。
      実にいい気持ちでした。

  2. 平日でなければ聞きにいきたかったです。読んでいてでつち先生がうらやましくなりました。
    一花さんはさらっとした芸風が本当にいいです。本物の江戸っ子だから、作っている感じがなく、自然なんですよね。
     

    1. 先生はご勘弁を。メンヘラ女を思い出します。
      平日昼間はいいものです。ただ、たまにヒルハラを仕掛けられるのが難点です。
      今回は一花さん2席で幸せでした。

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