六人廻し(下・桂笹丸「明烏」)

希光さんが、三遊亭遊かりさんのことも話していたのを思い出した。
クネクネしながら人を褒めるモノマネ。これも似てる。
これ、モノマネなんで誇張してるわけじゃないんですよ、本当にこうですからだって。
遊かりさんは本当にエピソードが多い人で、こないだ噺家仲間でキャンプに行ったときも、「遊かりの話、今日は禁止」令が出たくらいです。

楽しいマクラをやめ、本編に入ろうとしたときに、なぜか演者用のふすまが開く。
どうやらひらい圓蔵亭の展示を見たい人が、間違って開けてしまったらしい。
そんなハプニングも取り入れて先に進む。

本編「ちりとてちん」に戻ります。
女中のセリフが1か所入っているのは珍しいが、だが特に描写はしない。
なので登場人物は実質3人。
この3人を、全員とにかく楽しそうに描くのが希光さんの持ち味。
幇間みたいな竹さんはもちろんだが、旦那も徳さん(だったかな)も、すべてが楽しそう。
そしてなにより演者が楽しそう。
ちりとてちんは、腐った食い物を嫌な奴に食わせるという、うっかりすると地獄のような噺であるが、まるで嫌なところがない。
嫌なところがないというのは、つまり「食いおった。ざまあみさらせ」という客の感情も湧かないということである。

笑いの量はすごいが、本質はそこではない。
なんというか、希光さんの噺からは、人生に対する余裕が感じられるのである。ベテラン師匠みたいな。
嫌みな徳さんは、鯛の刺身や茶碗蒸しなどには手を付けず、いきなり珍味を所望していた。珍しいが、スピーディでいいやね。

これで終わりでも全然よかったのだが、「お仲入り」と声が掛かる。
私はどういう構成の会だかまったく知らないし、演者からも聴いていないのでね。

最後、桂笹丸さんが再び出てきて一席。
タイのナイトスポットの話。
タイへは師匠・竹丸に連れていってもらった。
夜、師匠を酔わせて寝かしつけた後、同行している遊子アニさんと二人で夜の街へ。
キャバクラのようなところに入るが、三遊亭遊子さんはモテモテ。タイの人気の役者によく似ているらしい。
タイでモテないのは、「線が細い」「髪の毛を下ろしている」「メガネ」の男。
全てに当てはまるのが笹丸さん。なので全然モテない。
一度聴いたことのあるマクラだが、お店の様子や次のお店など、シチュエーションが細かくなっていた。

笹丸さん、とにかく美声だし、モテないのはフィクションだと思いますが。
本編は明烏。
クスグリを必要以上にブッ込まず、ストーリーに忠実なやり方で助かった。
希光さんに笑わされすぎて、もうギャグに耐えられなくなっているからだ。
家での様子や茶屋でも騙されているのに気づかないなど、強調したいところが多い噺だが、まっすぐ進む。

線の細い自分のことを最初に断っておいたおかげで、若旦那が演者にシンクロしている。これは面白い。
若旦那は人によってその描写が「子供」であったり、「ピュア」であったりいろいろだが、笹丸さんの若旦那は「線が細い」。

他の噺家と編集のツボが異なるのが笹丸さんの持ち味らしい。登楼して、アッという間にここが吉原であることに若旦那は気づく。
スピーディだ。若旦那がいじけていて、おばさんに床に運ばれるのも同様。

一晩経った若旦那が、急にやさぐれ男になっている。ここと、この直前、源兵衛と太助の「甘納豆の投げ合い」が、内在するクスグリ以外で出てくるギャグだと思う。
なんだか急にやさぐれている若旦那は、桂枝太郎師で聴いた。

少々特殊な客の心理状況のもと始まった明烏だが、クスグリ少なめなのがよかった。
笹丸さんはもともと少なめなんだろう。猫の皿とか、だくだくとか、短い噺をかなりアレンジしているやり方からすると意外にも思えるが、そんなのも面白いと思う。

非常に満足しつつ、普通の落語会については、もう少し笑い少なめでもいいなと思いつつ帰途につきました。

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作成者: でっち定吉

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