三遊亭好楽「お世話になった噺家漫談」

錦笑亭満堂師の披露目、仲入りで聴いた好楽師の漫談について。
亀戸の続き物の中でやればいいのだが、なんとなく分けてみた。

今回の亀戸では、新真打・錦笑亭満堂師のスター性と、それと相反するかもしれない一門の本格派っぷりについて思い知った。
この一門のボスが、ご存じピンクの好楽師。一門に限らず、円楽党全体の実質ボスみたいなものだが(会長は降りている)。
好楽師が指示したとおりに、圓楽、圓生、そして橘家圓喬の名が襲名されることであろう。

今回の披露目、出ていなかった一門メンバーにも、好一郎、ぽん太、好志朗、らっ好などいるわけで。実力派の宝庫。
この一門を代表する噺家といえば、兼好師。
世間は「ポンコツ好楽から大人気の弟子が出た。師匠は弟子のおかげで恩恵を被っている」ぐらいに思っているかもしれない。
そんなことを言われる師匠のほうも否定しないだろう。
でもスーパー噺家兼好師だって、やはり好楽師あっての存在だと、今回特につくづく思った次第。
そうかと思うと、スターらしい落語をする弟子、満堂師も出てくるという。本当、どうなってるのかね。
私は別に、「好楽師匠は笑点ではあんなだが本当はすごいんだ!」なんて力説したいわけじゃない。そんなのむしろ野暮というものだ。
ただただ、感動を表しているのです。それに、笑点の好楽師だってストレートに好きだし。

一門がすばらしい秘訣は、すでにわかっている。
ストレスのたまらない一門なので、みんないつもご機嫌でいられるのだろう。
おかげで噺家らしくいることができるのだ、きっと。
「弟子に厳しく」が方針の勘違いした師匠のところからは、いい弟子はまるで出てこない。

さて、好楽師の高座はたびたび聴きにいっているのだが、漫談だけで終えたのに遭遇したのは初めて。
だが違和感は皆無。
もともと噺に入る前のマクラが楽しい師匠。それが独立したというだけ。
途中から、ああ、これは噺には入らないな、しかし見事だなと感服しながら聴いていた。
これはもう、先代圓歌や馬風師、木久扇師と同じ、練り上げられた漫談のレベル。
アドリブ強くてその場でなんでも出せる好楽師の場合、決して練り上げてはいない気もするのだが、でも実にスムーズだった。

この日は仲入り後口上なので、最初から黒紋付。
今度77になりますと。
もう、この年齢が周りに誰もいなくなっちゃいました。まだ元気な師匠もいますけど、寄席には出なくなりました。

亀戸の隣、平井の師匠、橘家圓蔵の思い出から。
好楽師が西武池袋線沿線に住んでいた頃、圓蔵ととみ子夫人が出くわした。
圓蔵が「いつも好楽さんをお世話しています」とシャレをかます。
とみ子夫人、「あら師匠、そのうちうちのがお世話するようになります」と返す。
すごい女だねと驚く圓蔵、川上貞吉などにその話をしたら、「そりゃそうでしょう、私らが二人掛かりだってかなわないんだから」。

顔のよく似た好楽師を銀座に連れ出し、「コイツは親父(志ん生)の隠し子なんだ」とホステスに嘘をつく志ん朝。

ある落語会で、半身不随、要介護でベッドから離れられない患者が聴くことになった。
演者はあの談志である。落語会で寝ている客と揉めたこともある人だから、関係者はうろたえる。
そこで好楽師、いいよ、高座の一番前にベッドを置きなさいよ。大丈夫だからとアドバイス。
談志出てきて開口一番、「おっ、落語聴いてポックリ行こうってか。オツだね」。
言われた患者のほうも、上がらない手を挙げて合図していた。

師匠、五代目圓楽のことも。
好楽師の息子王楽が、圓楽の最後の弟子。
晩年の弟子なので、上の弟子に対するのとは態度が違う圓楽。弟子のほうもわりとなんでも気軽に訊き返したりする。
「師匠、この世で一番くだらないことってなんでしょう」と問う王楽。こんな質問、上のほうの弟子にはできないこと。
訊かれた圓楽、一生懸命考えて、「『許してちょんまげ』かな」。

それから柳朝。
柳朝夫人は業界では大変有名な、強烈な人。好楽師も語るし、若い一之輔師もエピソードを語っていた。
柳朝は、おかみさんが飲んでるやきとり屋に、ホステスを平気で連れてくる。
そしておかみさんをホステスに紹介する。そこらでクラブをやってるママなんだ。客が来ないから店閉めて、ここで飲んでるんだ。
おかみさんのほうも話を合わせる。
なんてことはない。この夫婦は遊んでいるんです。

四天王のエピソードは何度か聴いているが、他にもエピソードは豊富である。
思い出を語る好楽師は実に楽しい。
もちろん漫談でない落語も楽しい。

作成者: でっち定吉

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