梶原日曜寄席 その4(三笑亭夢丸「御用心」は芸協新作)

知らなくて当然の芸協新作を掛ける夢丸師。
強盗にも歴史がある。日本の歴史上初めてピストル強盗をしたのは清水定吉。
映画や芝居、浪曲にもなった伝説の人物。

二人の男が、最近増えたピストル強盗について語り合っている。
最近は物騒だ。いきなり撃たれるのだから。

こういう展開とセリフ回し、振り返るといかにも芸協新作だなあと思う。
会話が、ストーリーの進行のためにとってつけたものばかりなのだ。
でも、夢丸師が語るとほとんど気にならない。なにしろ、どっちの人物も上ずり気味なのだもの。

ひとりで帰る男が、早速ピストル強盗につかまる。有り金を出せ。
被害者の男は、感謝の弁を述べる。いや、あなたみたいに、命を獲る前にちゃんと話してくれる人はありがたい。
あなたが気に入った。金なら出すから全部持っていけ。
それだけじゃない、この懐中時計も万年筆も持っていけ。万年筆のインクは空だから、自分で買ってくれ。
あと、なんかあるかなと懐を探る。
その代わり、強盗に遭った証拠が欲しい。帽子と袖を、ピストルで撃ち抜いてみてくれ。

「もしもこんな強盗被害者がいたら」というコントを落語にしたものであるな。
サゲは知らないながら予想できてしまうものなのだが、ドリフのコントと思えば、すんなりハマる。

ところで、夢丸師の持ちネタにもあって、ぜひ佐ん吉師に古典落語化して欲しい芸協新作がひとつある。
「旅行日記」という作品。初代林家正楽作。
芸協の二ツ目から3回聴いたのだが、すべて「私は誰でしょう」入りにしてしまった。
いかにも楽しそうなストーリーとサゲを持つ噺で、若手がやりたくなるのもよくわかる。だが、古典落語に成長していないがゆえに危険な噺。
もったいないので私が台本として古典落語化しようかと考えていた。プロがやるほうがいいと思うのです。

トリは桂佐ん吉師。再び見台と膝隠しが登場。
マクラはなに話してたっけな。
一席目のマクラを思い出した。一席目で佐ん吉師、東京で上方落語をやると、マジメな線を狙っているのに言葉のおかげで妙に笑いのほうにバランスが揺れるという話をしていた。

ともかくトリは大ネタ。
非常に上方落語らしい、仔猫。私も好きな噺。
「猫を被る」を振ってから。

上方落語に見られる全般的傾向として、「ムダを楽しむ」部分が大きいと思っている。
先日、桂枝太郎師から聴いた「質屋蔵」はよかったのだが、上方落語のムダをあえて切り詰めた一席。本来の質屋蔵では、主人が番頭に一方的に語るコロコロストン妄想が実に長い。
いらないといえばいらない。でもあるといい。

仔猫の楽しむべきムダは、人情。
田舎から出てきた女中、お鍋。非常におもろい顔をしているので、男衆たちはなんとかお鍋を追い返そうと試みる。
しかし居ついたお鍋、実に働き者で力も強い。
大店の奉公人たちに分け隔てなく接し、先回りしてあれこれ面倒を見てくれる。
人には添うてみよというがまったくだ。揃ってお鍋に感心し、あまつさえ嫁にもらうならお鍋がいいなどと語り合っている。
このシーン、絶対にないといけないというより、シーンそのものを楽しむ部分だと思っている。実際、私もこの部分がとても楽しく、心地いい。
ばっさりカットして、恐怖ものに変えてダメというものではあるまい。一言、演者の地のセリフでお鍋の働く様子を描写しておけば足りるし。

しかし物語はここから急変し、一気に恐怖の世界に変わる。
徐々に、夜中にケタケタ笑うお鍋、口元を血で染めるお鍋が目撃されてくる。
さすがにもう置いておけない。主人と番頭は、お鍋の留守を狙って持ち物チェックをする。

すべてを任された中間管理職であり責任者の番頭さんはつらい立場。
お鍋を呼んで、なんとか暇を取らせようとする。
以前、桂雀々師から聴いた際、番頭さんのもったいをつける様子に、ちょっとうんざりしてしまった。まあ、実際に話が無限に繰り返されるんだから、そうなっても仕方ない部分。
だが佐ん吉師、話を無限ループしてもダレないね。いたく感心してしまった。
結局、心底逡巡している人間の姿を描き出すから、リアリティが濃厚で退屈しないということらしい。口で言うのは簡単だが。

お鍋が、来年のれん分けしてもらう番頭にプロポーズされたのだと勘違いするのが、恐怖シーンにおけるとっておきのご褒美だ。
相手が猫とはいえ、動物の生き血をすするお鍋に救済などそうそうあるはずないのだが、しかし噺は大団円を迎える。
番頭さんが納得すればいいのだ。佐ん吉師の描く番頭さん、心底ホッとしているのが伝わってくる。

というわけで、2時間強、すばらしい会でありました。ひっそりこんなレベルの会が開催される梶原いろは亭恐るべし。
今後もこの、佐ん吉・夢丸二人会は行われるということです。
また来たいものだ。

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作成者: でっち定吉

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