国立演芸場23(中・三遊亭好楽 兄弟子柳朝とその夫人)

兼好師の描く餅好きの男は「八っつぁん」。相手は隠居。
できる限り東京落語の一般的な設定に寄せる。
八っつぁんは手拭を2枚重ねた妙ちきりんな着物を着ている。湯に行くと、これで体を洗って体を拭いて、着て出てきてすぐ乾くので重宝だと。
上方落語より鯉昇師を強く感じたのだが、いっぽうで上方落語っぽくもある。隠居(上方では甚兵衛さん)のからかいかたが。

兼好師ならではの見せどころは、熱々のおもちを両手で投げながら冷ましていき、かぶりつくシーン。口のほうは熱くても大丈夫なのだが、手は熱いらしい。変にリアル。
鯉の滝昇り、おさるのブランコ等、次々技を見せる八っつぁん。客からジワジワ、やりすぎないいい拍手が上がる。

八っつぁんは軽口を叩き、隠居は本気で怒っているわけではないのだがちょっとたしなめたくなったという、平和な人間関係。
体中餅だらけになって家に帰ってからは、非常に展開が早い。もちろん意図しているのだろう。
下向けないから履物が見えないなんてのもなく。
人が死ぬ噺は、とにかくナンセンスを強くしないとならない。
八っつぁんにおかみさんがいるのかいないのか、描写はされない。いないみたい。
蛇含草のネタバレも最小限にとどめ、実にいい着地。

来た甲斐のある、見事な一席でした。

ヒザ前は桂歌助師。この芝居、歌丸師の弟子が顔付けされているのである。
歌助師は昨年末、浅草で聴いた「替り目」がよかったので期待。
だが、噺家共通財産である学校寄席のマクラから、都々逸親子。
普通だなあ。
ヒザ前の仕事は本来こういうものだが、持ち時間の長い国立の場合、それほどトリに遠慮しなくていいと理解しているのだけど。
ちょっとうとうとしてしまいました。

寄席の彩り、うめ吉姐さんの三味線と踊りを挟み、トリは好楽師。
今日もピンクの着物。
なんでも朝、一之輔師と一緒にフジテレビのぽかぽかに出たそうで。その情報がたくさん上がっていた。
一之輔師から「肝潰し」の稽古を頼まれ、付けたそうで。一之輔師には向いてそうだ。
そんな話は高座ではしない。しそうでもあるけども、つながらないのだろう。

いいですね、うめ吉さん綺麗で。
久々に彼女に逢って、ハグしました。彼女は私に夢中なんです。これは冗談ですが。

私も77歳になりまして。
昔の噺家は、小さん師匠や私の師匠林家みたいに長生きした人もいるんですが、早世の人も多いですね。
木久扇さんなんて、85歳ですよ。アニさんなんで死なないのって訊いたら、死ぬの忘れちゃったよって言ってますけど。

昔の師匠方は本当に面白かったと好楽師。
落語はもちろんなんですが、とにかく人柄がみな楽しかった。
そして、先月亀戸で聴いたばかりの先代柳朝の話。早世の側ということだ。
ネタが被ったことになるが、まったくイヤじゃない。それに再聴して、忘れていたエピソードも思い出した。
先日浅草で追善公演がありまして、私も呼んでもらいましたと。
あちらは落語協会の芝居。今日は芸術協会の芝居。どちらにも出ているのは好楽師だけだな。

柳朝は、ごく気軽に嘘をつく人だった。
といって、自分を持ち上げるいやらしい種類のウソじゃない。すぐバレる噓。
楽屋でボクシングのタイトルマッチをみんな見ている。
柳朝が、誰だと聴く。前座が対戦しているボクサーの名を答えると柳朝、そうじゃない。レフリーだ。
レフリー? 誰もそんなの知るわけがない。
柳朝テレビを見て、ああ、ジョージだよ。上手い人だ。この人に任せておけば安心だ。そういっていなくなってしまう。
タイトルマッチが終わり、「レフリーは毎度おなじみヤングさんでした」

香港に仕事のあった好楽師(笑点かな)。
柳朝にその話をすると、ああ、香港に行きつけの仕立て屋さんがあって、2時間で背広作ってくれる。話しておくから。
大通りの煙草屋を曲がったところだよ。
現地に行ったら、大通りに煙草屋はありました。仕立て屋なんかどこにもありません。

それから柳朝夫人の話。豪快な人で、私は大好きでした。
夫人は、病院で私が手を握ったまま亡くなりました。
あるとき、男友達の多い柳朝夫人が飲みに行くと、ヤクザのアネさんたちが盛り上がっていました。彫り物がチラチラ見えています。
男たちはビビッてよそに行きませんかと言いますが、夫人は全然気にしません。
ひとしきり飲んで柳朝夫人、賑やかなアネさんたちに、「お前らどこの組のもんだ!」
アネさんたちはどうもすみませんとお酌をしに来て、すぐに帰ってしまいました。

客が好楽師の昔ばなしに引き込まれる、その空気を強く感じた次第。
たまんねえっすね。

本編は実に珍しい「胡椒の悔やみ」だった。
続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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