国立演芸場23(下・三遊亭好楽「胡椒の悔やみ」)

唐突に噺に入る。
お前また笑ってるのか。今日はよしとけ。大家が亡くなったんだぞ。
ということは、胡椒の悔やみ。
さすが好楽師、こんなの持ってるんだ! あるいは柳朝から来てるのだろうか。

この日は、弟子も師匠も人が死ぬ噺でした。

胡椒の悔やみは過去2回聴いた。
うち1回は、好楽門下の好一郎師なのだが、骨格が全然違っていた。
弟子のは主人公が松公だったし、師匠でなく柳家から教わったらしいもの。
珍しい噺で嬉しいのだが、これトリネタなの? と思う。
だが、知っているものよりずいぶん中身が濃い。これなら立派なトリネタだ。

弟子が柳家から仕入れたものとは、次の点が異なる。

好楽 好一郎(柳家)
主人公 ゲラ男 松公(与太郎)
主人公のキャラ とにかくいつも笑顔 空気が読めない
亡くなった人 大家 100歳を超える大往生の隠居
ネタの種類 劇中エピソードたっぷり(大ネタ) 劇中エピソードは少ない(小ネタ)
サゲ 悔やみとくしゃみ間違えた ああスーッとした

ずいぶん違うものだ。
弟子も、師匠が持ってるって知らなかったのかもしれないな。

共通しているのは、通夜に出席するのにゲラ男は具合が悪い。なので胡椒の粉を飲ませて涙を止まらなくするというもの。
通夜に行くと、まず涙を浮かべながら、さらさらと見事な悔やみを述べる男がいる。これは各バージョンに共通。
好楽バージョンでは、主人公たちの集団が、「あいつ悔やみ慣れてるね」と感想を述べる。
この次にもうひとり、畳屋の長い悔やみが入る。これでもって、大ネタらしくなるのだ。

この長い悔やみがハイライト。
脱線が噺の肝になるのは珍しい。他には近日息子があるぐらいじゃないかな。あれも悔やみの噺だ。
最初は亡くなった大家に深く感謝する畳屋。
若いころ、大家に声を掛けられた。鰻でも食いに行こうと。
鰻屋なんて入ったことがないがついていく。そしたら座敷に案内される。
こんなところ来ていいのかと思っていると、そこに若い女性が。
大家が言う。この娘さんと所帯を持たないか。
これが馬鹿にいい女で、あっしは二つ返事。
おかげさまで3人子供ができました。

悔やみのはずが、いつの間にか畳屋ののろけに変わっている。
この間、子供たちを外に遊びに行かせて、かみさんと揉みっこしてたんですよ。いい心持ちでね。

かみさんの後ろから肩をさすっていて、手が滑って胸元に手が行ってしまう。
これがまたね、3人産んだのに、まだみずみずしいんですよ。かみさんは早くのけとくれよと言うんですけど、子供たちもいねえし、まあもうちょっといいじゃねえか。

好楽師から、色っぽい噺聴いたことあったかな。
珍しいなと思ったが、これが実にいい感じ。師のトボケた感じと実にマッチしている。
人ののろけに一同呆れたところで、ゲラ男の番になる。
ちゃんとしなきゃいけないと、胡椒の粉を倍にする。
いつも笑ってる松ちゃんが、泣いてくれてるのかいとかみさんは喜ぶが、もう涙が止まらないどころか、なにも喋れない。
身振り手振りで水をもらうが、倍の量口にしたからまだダメ。
そして、初めて聴くサゲへ。

弔いを扱っておきながら、実に呑気な噺。
短命も呑気だが、さらに。
でも、哲学を勝手に感じてしまった。しょせん弔いなど、生きてるもんのためにやるもの。
生きてるもんが亡くなった人に感謝することもあるが、結局他人事には違いない。
どんな恩人だって、死んでしまったら生きてるかみさんのお乳のほうが大事なのだ。

好楽師は大変な数の噺を持っており、たまに珍品も出すのがたまらないです。
芸協の寄席で円楽党の師匠と弟子を聴き、両方で大満足。

 
 

帰りみち、楽しいことがあった。
スーパーに寄ったら、こんなのが。

税別3円、税込4円。
一応牛スジとあるけど、なんの肉? 産業廃棄物?
面白がってレジに持っていった。
レジのお姉さん、不思議がって店長に確認してたけど、店長の同意を得てそのままレジを打つ。
併せて買ったもうひとパックは、分量若干多かったけど600円ぐらい。
人的ミスなんだろう。
明らかな錯誤のこのケース、客が「4円で売れ!」と強要することなどできない。それはわかってるし、そんなつもりもない。
それでも、ごく当然のテンションでもって買いました。

私は関西にいたのでスジ肉が大好物。
玉ねぎと一緒に炊飯器でやわらかく炊いて、ジャガイモと一緒に炒めておいしくいただきました。

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作成者: でっち定吉

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