コラム「『笑点』メンバーは落語がうまくない その通念はいつ覆されたのか」が残念(上)

堀井憲一郎氏についてはたまに書いている。
いつものように以下、略してホリイ。侮っても、無用の親しみを込めてもいない。
私でっち定吉は、ホリイのライター(より格上の「コラムニスト」の肩書)としての姿勢、ユーモア感覚、ギャグ、ビジネス体制のすべてに敬意を払っている。
泡沫ライターから見上げると、まぶしいばかりの人だ。
敬意丸出しで、最近こんなものも書いた。

文章を書くことについて堀井憲一郎に刺激をもらう

その割には、ホリイが落語について書いたその内容に、共感したことがあまりない。
むしろ、そりゃ違うでしょと思うことのほうがずっと多い。
まあ、こんな敬意の払い方もあっていいんじゃないでしょうか。
わかりやすい思想にはまり込み、仮想の敵の前に一致団結したら最後意見の違いをまったく認めなくなるイタイ人たちよりは、ずっと柔軟だと自負している。

ホリイの落語における最も見事な功績は、当代林家正蔵師を非常に早く評価したことだと思う。
今や世間のほうがようやく追いついて、ヤフコメでも正蔵師の実力に対する疑問は湧いてすらこなくなっている。

さて、今回のコラム。
現代ビジネスではなくてYahoo!オリジナル記事なので、消えるのが早そう。

『笑点』メンバーは落語がうまくない その通念はいつ覆されたのか

要約すると、こう。

  • 笑点メンバーは、落語がヘタだとされてきた
  • それは、ある種正しい。少なくとも古いメンバーは、圧倒させる落語をしない。
  • しかし、たい平以降は抜擢で、本業の上手い人が笑点に出るようになった
  • 昇太、たい平、宮治、一之輔はみな抜擢

やんなっちゃったよ。
私は観なかったけど、好楽・一之輔の両師が「ぽかぽか」に出ていたと。
そして好楽師が一之輔師を評し、「この人さ、落語がうまいんだから、『笑点』なんか出ちゃだめなんだ」と語ったそうで。
いつもの自虐ネタをきっかけに、世間でまだ根強い「笑点やる人は落語がヘタ」という認識について考えてみたというコラム。

少なくとも昔と違い、今は笑点は落語の上手い人がやるもの。
この認識は、ホリイも私も共通している。
ただし、切り分け方が違う。
現メンバーの木久扇師は、どう捉えても「落語が上手い」タイプの人ではないから脇に置くとして。
好楽も小遊三も、上手いことは上手いがそれほどの人ではないと評するのだ。
5代目圓楽も歌丸も、6代目円楽もそうなんだと。

木久扇師が木久蔵で、そしてこん平がいた頃が、「笑点=落語がヘタ」認識の蔓延した渦中であったろう。
こん平は人気者だったが、「落語が上手い」という評価はどこにもなかった。
そして好楽はポンコツキャラ以前に地味な人だったし、晩年は圓朝ものの評価を確立していた歌丸だって、昔は決して本業の評価は固まってはいなかった。
本当に本業と笑点大喜利のハイブリッドだったのは、小遊三だけという時代があった。それは確かだ。

事実として古くから売れてた小遊三師も、ホリイにかかると「たぶんうまい」である。
小遊三ファンの私より、恐らくずっと数聴いてると思うんだけどな。

最近爆発的に面白く、それが世間にも浸透してきた好楽師も、地味で陰気だと。
いやあ、信じられないな。
ホリイが好楽師のことを嫌っているらしいその筆致は、林家九蔵事件から目立つようになった。
正蔵派だからって好楽嫌いにならなくてもいいと思うんだけど。
好楽師はたぶん、ほとんど聴いてもいないと思う。

笑点の好楽師についても、東京かわら版の連載コラムで、「昇太があまり指名しない」と書いている。
隣の木久扇は面白いが、好楽はつまらないから司会が当てないのだと。

日ごろから評論してたって、結局はどこまでいっても好き嫌いは付きまとう。仕方のないこと。
志らくがアンチに対して「落語を聴いてから批判しろ」とよく言っていたが、これが成り立ち得ないことはかつて書いた。
嫌いな人を嫌いなモードで聴かざるを得ないうちは、評価以前の問題だ。
ただ、それにしてもホリイの認識ときたら、世間の共通認識をベースにした客観的事実からも逸れている気がする。

好楽師は現在、落語界のキーマンであり、ドンだと言っても差し支えないぐらいの地位にある。
本当に落語がヘタだったら、そんな地位に来れる?
本当につまらなかったら、現在の大喜利での確固たる地位が築ける?
正蔵師のときは逆張りが見事功を奏したが、好楽師がドンだということを否定するとなると、現実が見えていないのでは。

ホリイは主観で語っているし、私もまた主観でしかない。
だがホリイの主観よりでっち定吉の主観のほうが、どちらかといえば世間にフィットしてるんじゃないですかという主張を明日します。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。