コラム「『笑点』メンバーは落語がうまくない その通念はいつ覆されたのか」が残念(下)

「現在の笑点には落語の上手い人が出ている」という見解は、ホリイも私も同じ。
この見解に逆らうのは自由だが、私からは「立川雲水かよ」と言わせてもらうことになる。
さて私と違いホリイは、「本来異なる競技がここに来て一致してきた」という認識。
私の見方はかなり違っている。「落語も笑点大喜利も、本質的には同じ」である。必ずしも世間から全面的に賛同されるとまでは思っていないが。
マクラを語る能力、噺を創作する能力、客への向き合いかたみんな両競技に共通する。
むしろ、昔の「本業の評価のない噺家が笑点に出る」とされる時代のほうが、特殊だったのでは。
現在本業が上手く、笑点にレギュラーで出たら上手そうな人として、遊雀、菊之丞、兼好、小痴楽など指がすぐ折れるけどな。
逆に本当に地味だった(昔についてはホリイと同意見)好楽師は、座布団の上で模索しているうちに、神々しいまでのおもしろキャラになり、落語も達者となった。

落語において、なにをよしとするかも、ホリイと私、かなり見解が違う。

ホリイは落語の上手さを「場の制圧力」だと捉えている。客を気で圧倒してしまうということだ。
理解はできる。だが、もっと大事なものがある。
制圧というと、演者が前に出ていって客を飲み込むイメージ。
私が上手いと思う高座は違う。客が自発的に身を乗り出して、演者に吸い込まれていくイメージだ。これは鶴光師の語る、先代春團治にヒントをもらった。
吸収力あるいは吸着力。なんか臭いの元みたいでいやだな。「牽引力」でどうでしょうか。
このたび人間国宝の決定した五街道雲助師だって、制圧よりも引っ張り込むイメージだが。

ホリイの言う制圧する人とは? このコラムでは志ん朝、談志の名前しか出てこないのだが、本当は小三治をイメージしているはず。
ホリイは繰り返し、小三治の発する気について書いているからだ。
確かに小三治は、そんなイメージ。
客も制圧されて喜んでいる。小三治嫌いの私だが、制圧されて喜ぶ感覚は若き天才春風亭朝枝さんからも得ることができるので、全面的に否定はしない。

だが、制圧よりも、引きずり込まれるほうがずっと心地いい。
引きずり込まれる際は、客自身の主体性とワンセットだし。
三平だって、客を制圧しようと試みるタイプだった。それが外れるので、びっくりするほど嫌われることになる。
落語の本来論としては、客を引き込む芸のほうがふさわしいと考える。
ホリイだって、落語がいかに弱い芸で、客の協力が必要かいつも書いてるではないか。
客に向かっていく人のほうが特殊だ。
ホリイは「特殊しか評価しない」傾向もややある。あれ、正蔵師は客を制圧しに行く人かな?

好楽師の芸は、客を引き込む力がとても強い。引き込まれたいと望んだ人にとっては。
ホリイのような好楽嫌いの人は、引きずり込まれないし、その気持ちよさもわからない。
落語自体、おおむねそうしたものだと私など思っているのだけど。
引き込まれたい人が、好楽師になぜ引き込まれるか。
小三治には逆立ちしても出てこない、好楽師の人柄。
春風のような、ぬるま湯のような魅力。ホリイはこの魅力に筆を割いたことはない。

好楽師は、兼好師という今後の落語界を支える噺家を生み出した。
なに、兼好だけだろと言う人も多そうだが、好の助師もここに来てプチブレイク中だし、その後もスターの満堂師はじめ次々出てくる。
兼好門下の充実により孫弟子も期待大。そして、この循環がまた、好楽師を落語界のドンたらしめてもいる。
弟子を無数に世に送り出した談志はいざ知らず、小三治だって喜多八、三三だけなんだからな。弟子の半分と、有望な孫弟子もクビにして。
志ん朝一門も衰退の一途。

魅力溢れる高座を務め、将来有望な弟子を多数送り出す好楽師。
その人を「地味で陰気」と断じてしまうなんて。
個人の意見でとどめているうちは仕方ないこと。だが、御年70を超えて急速に名人に上り詰めようというこの人の評価を修正しようともしない態度は困ったもんだ。

渡邉寧久氏は、「好楽無双の時代」なんて書いている。
こっちのほうが世間と時代によほどマッチしていると思うんですがね。

好楽無双の時代

重ね重ね残念なホリイ。
私の尊敬するホリイは、これから「昔の落語はよかった。若い奴にはわからないだろうが」という回顧爺になっていくのであろうか。

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作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 好楽師匠は年を取ってから花開いたという感じですね。
    あのいい意味での脱力感と、バーカ!と言っても許される人徳。

    堀井さんときどき記憶違いもするので、あまり共感はできません。
    笑点のレギュラーの顔ぶれが1983年から2004年まで全く変わらなかったとか。桂才賀を忘れてるのか、記憶が飛んでるのか分かりませんが。
    こーりやまのたけちゃんは一度生で見たことがありますが、一見を小馬鹿にしてて、それ以来見にいくことはありませんでした。

    1. 好楽師が復活する前のピンクは才賀師でしたね。
      小三治の客、馬鹿にされて喜ぶイメージは確かにあります。いい悪いは知りませんが。

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