落語における香盤とは

落語協会の香盤を巡り、やや世間がザワついた。
もっとも前座の春風亭貫いちさんの「6人抜き」はただの事務誤りに過ぎなかったようで、誰もザワついていないかもしれませんが。
元三遊亭天歌、吉原馬雀さんの香盤が下がったのは本当。
今のところ、これに関するファンの意見というものは目にしない。「ひどい」「よかった」「これからがんばれ」なんだっていいのだが、なにも目にしない。
まあ、真相は「事実上の行為」でありましょう。こうなったとき(前例は少ない)はこういうものだという。
古今亭佑輔さんは下げられなかったけども。
馬雀さんのことをよく思っていない古株の理事がいたとしても、だから嫌がらせをする、というほどのことには思えない。
芸協に移って修業をやり直した噺家たちのことを思い起こすならば、後でもって「あいつ(馬雀)は活動休止してたくせに普通に真打になるのかよ」と言われなくて済む、という考えかたもありうる。

ところで。
私がふと思い出したのは、落語協会や芸協の噺家たちではない。
円楽党の三遊亭一太郎である。
二ツ目時代に一度しか高座に上がらなかったくせに、平気で真打を名乗っている。
「平気」ではないかもしれないが、非常に厚かましくはある。
世界一、修業をした実績のない真打。世界一、軽い真打。
五代目圓楽一門会の集合写真にも載っていないくせに。辞めた愛九は映ってるけど。
円楽党にも香盤があって、一太郎は平気で「好一郎」「満堂」の上に掲載されている。
「出演者」のタブの「真打」を見れば出ている。しかしリンクは張られていない。

円楽師の息子だからこんな好き放題ができていたのだ。円楽師、よその二世には厳しかったくせに自分の息子にはとんだWスタンダード。
今からでもいい。一刻も早く「副業が噺家」ですらない一太郎には廃業してもらいたい。ペーパー真打が噺家経験者に変わるというだけのことだ。
まあ、もう後ろ盾などないから、そのうち首に鈴が付くとは思うのだが。
よそで真打を勝手に名乗ってもいいが、五代目圓楽一門会からは出ていってください、になるのでは。
いずれはそうならざるを得ないだろう。真打になって一度も寄席の高座に上がっていない奴が、ベテランの域に達してきたら、若い人はどう思う?

さて、今日は「香盤」という言葉について改めて。
香盤は落語や講談界だけではなく、さまざまな業界で使う。
「淀五郎」において、意地悪團蔵が「香盤」をズラッと見ながら澤村淀五郎をピックアップするシーンがあるとおり、芝居のほうでも使われる。

落語が好きでも、「香盤」はあまりなじみのない言葉と感じる向きもあるだろう。確かに、本来素人がどうこう言うものではない。
落語でいう香盤には、ふたつの意味がある。

  • 序列
  • 寄席の番組

もちろん、「(破門で)香盤が下がる」「(抜擢で)香盤が上がる」というのは序列の意味である。
でも、「寄席の香盤」という言葉も使わなくはない。「番組」と言ったほうがわかりやすいから、私もこの意味で香盤は使わないけども。
上方落語協会では、序列の意味での香盤は非公表となっている。
序列というものは実力とは必ずしも関係なく、本当に並び順なのだが、上方においては「ランク付け」になってしまっているため、公表できないようだ。
互いに「にいさん」「ねえさん」と呼び合っているということは、入門年次による序列は存在しているわけだから、東と同じ意味での香盤も概念上は存在していることにはなる。

香盤の本来の意味は、「香道」でお香を焚く炉のことらしい。
これだけではなんのことだかわからない。
画像検索すると、升目を打った盤が出てくる。
なるほど、鈴本や末広亭に行けば見られる、噺家の木札が埋まった様子に似ていないこともない。
噺家の「序列」を表す木札もかつてはあったのだろうが、今はほぼ概念上のものだ。協会に行けばあるのかな。
いずれにせよ、形状からひもといたときには、ふたつの違う意味の「香盤」を、統一的に考えるのは難しいことではない気がする。

さて、「香盤」を最もよく使う業界はどこか。
Xことツイッターで調べると、なんとストリップである。まあ、出るわ出るわ。
ストリップ興行に、どのお姉さんが出演するかがつまり香盤。
寄席の番組の意味の香盤と同じなのだけど、なぜこのニッチな業界で香盤が多用されているのか? 不思議である。
ストリップと寄席も、無縁ではない。浅草演芸ホールの建物にある東洋館は、かつてはストリップ劇場(フランス座)だったわけだし。
最近は少ないが、浅草のストリップ小屋で修業した芸人も無数にいる。

いずれにしても現在、一番「香盤」がなじみのある業界はストリップ。
落語で「香盤」が使われる際、ストリップ好きが見ながらニヤッとしているかもしれない、

故・三遊亭円丈のマクラで、浅草でもって「早く脱げ」と客に言われるマクラを思い出した。
あとで聴いたら「ぬう生」とヌードショーとを間違えたのだという。

とりとめもなく終わります。

作成者: でっち定吉

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