西新井いきいき寄席(下・柳家喬太郎「普段の袴」)

残していきたいものの最後に、我々のやってる古典落語を、と締める喬太郎師。
鈴本演芸場の近くに上野広小路がありまして、と。
ああ、普段の袴だ。5月に聴いた噺だ。
この噺は嫌いじゃないが、さすがに一瞬ガッカリした。
だがまたパワーアップしていてすばらしい内容でした。感激した。
ネタおろししてから間もないはずのこの噺、しかも本来的に地味な噺を爆笑巨編に作り替えていっている、その腕と、ひとつの噺が成長していく過程に驚嘆しました。
マイナーな噺であるがゆえに、成長する余地は大きい。
といっても、やっぱり骨格はそんなに派手じゃなくて、会話の妙で笑わせるという、古典落語の醍醐味を強く味わわせてくれる逸品。
この日は仲入りだが、寄席のトリでも出せそうな噺に進化していた。
この日のノリのいいお客さんたちも、キョンキョンの真骨頂が聴けて嬉しかったに違いない。

おさむらいが道具屋を訪れるシーンは、笑いゼロ。
しかしながら人生の余裕がゆったり背後に漂い、いい気持ち。ここを正面から乗り切れるため、「仕込み」のため我慢している感がない。

普段の袴は、オウム返しの失敗という普遍的な構造を持つ。
とはいえ、風格あるおさむらいのマネして「普段の袴である」がやってみたい奴にリアリティなんかない。
オウム返しの噺が難しいのは、ここだろう。青菜あたりでも、演者はみんなマネしたいことをどう納得するか(まず演者本人が)に腐心している。
ではどうするか。
「やってみたくなる過程」を描くことは放棄し、「やってみたがるアホがいる」ことを描けばいい。
恐らくそういう方法論だと思います。

きゅうくつ袋貸してくれと大家に言う八っつぁん。
大家、「袴か。よく俺もわかったな」。
自然なメタ感が加わっていて、もう序盤からノックアウト。

祝儀か不祝儀か訊かれる八っつぁん。答えられないでいると大家が「ぶつかったのか」。
そう、ぶつかったんです。祝儀の野郎が湯島のほうから、不祝儀の野郎が末広町のほうから、両方酔っぱらっていて広小路の交差点でぶつかった。
二人とも友達だから、八っつぁんが間に入って蕎麦屋の2階で手打ちにする。だから貸してくれ。
大家はニヤニヤしながら、かみさんに俺、こいつ好きだよと。
八っつぁんの架空の手打ち話を一切否定しないところがたまらない。
さらに去りゆく八っつぁんに、「祝儀と不祝儀によろしく言ってくれ」。

ハイライトはやはりオウム返し。
大家と違い、被害者(でもないけど)の道具屋は、結構逆襲するようになっていた。どちらも自然にこうなっていくのがたまらない。
「わしが店先にいたら迷惑か」「迷惑です」
でも、基本的にはおかしな奴の遊びに逆らわない店主。意外と楽しんでもいる。
喬太郎師は古典落語であっても、中身が上質なコントである。

仲入り後は翁家和助師匠。
二枚扇の技は初めて見た。寄席でもやっているのだろうか。
それから五階茶碗を片付ける際、茶碗の間の板をパーンと弾き飛ばすのも初めて。そもそも寄席だと五階茶碗は小花師匠(奥さん)の担当だし。
芸をしっかり見せることをよしとする太神楽の中で、常に笑いを追求しているこの人は本当に偉い。
「今流行らない変なものを回す」もそうだし、そして最後の包丁回し。
前座の駒介さんを呼び、頭の上で包丁を回そうとするが、駒介さんが激怒し、「前座なめんなよ」と言って立ち去ってしまう。
また新しいパターン。
いなくなっちゃったんで一人でやりますとのことでした。

トリは金原亭馬生師。
旅先で悪さをする雲助の話。
兄弟子にも雲助がいて、これが人間国宝になってしまいました。雲助が国宝でいいんでしょうか。
雲助、駕籠かきを振るのは、抜け雀。
2年半前に、国立のトリで聴いた演目と被ってしまった。
この記事は、「金原亭馬生 抜け雀」でヒットします。10代目の記事に混じって当代が。
やや残念だが、でもこの師匠のふわふわした味わいは、そんなことでは失われないことも発見。

ちなみにこの国立で、小駒さんから「無精床」を聴いていたことも読み返して思い出した。
海老床のマクラで、やはり拍手をもらっていたこともわかった。
3人とも被ったわけだ。別にいいさ。

酒代を請求して、一文なしを明かすまでの流れは世界一速い。
ついたてを宿屋の相模屋に持たせて、一気に筆を走らせるリアリティは馬生師だけだと思う。
金原亭の他の人から聴くわけでもない。
馬生師のふわふわした語りは、雀が抜け出るファンタジー領域に一気にたどり着く。

入船亭扇遊師を褒めたたえるタイプの落語好きなら、馬生師もきっと好きだと思うのだが。どうですか。
今さらだけど。

最後にかっぽれ。
まず小駒さんが一人で、それから着替えた師匠と、和助さんが登場して3人かっぽれ。
満足の2時間強でありました。
再来年、またこの一座で西新井に来るそうです。

帰りは押上か浅草へ電車で出ようかとも思った。
だが都営パスで結局、バスと舎人ライナーを乗り継ぎ日暮里へ。日暮里からバスで浅草に出たら、そんなにキツくなかった。
ドランク塚地が毎週立ち食いそばを紹介する番組は、喬太郎師が声をあてている。
西新井のホームラーメンを久々に食べるか、先週紹介していたばかりの日暮里の立ち食いそばを食べるかちょっと思案していたのだが、今回はどちらもスルー。

さて、今日土曜日も出かけますよ。

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作成者: でっち定吉

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