亀戸梅屋敷寄席32(その1・三遊亭げんきは侮れない)

10月は8日間9席行った。
無料の会があるとつい調子に乗ってしまう。無料の会だって交通費はかかるし、仕事もその分できないのだ。
ちょっと行き過ぎだと反省しているので、11月は減らすつもり。行きたいところは無数にあるけど。
ちなみに、NHK新人落語大賞の観覧は案の定外れた。

その10月は大東文化大学のイベントで終えるつもりだったのだが、最終日のハロウィン当日、亀戸梅屋敷寄席が好楽師匠だったのでつい。
世間が目指すのは余一会なんでしょうが。
一応、出かける大義名分はある。
江戸川区の地域還元、えどPayのチャージを買ったので、使いにいかなきゃならない。
亀戸の隣は江戸川区。
まあ、こじつけなんだけど。

珍しく、亀戸の顔付け、ひとり多い。
そして、トリの好楽師以外二ツ目。
とはいえ円楽党の場合、二ツ目こそいいんだけども。

開演直後に行ったらガラガラで、おやと思ったがちゃんと埋まる。
後方の楽屋はとっぱらっている。

真田小僧 げんき
一目上がり 好青年
明烏 らっ好
(仲入り)
小言念仏 栄豊満
壺算 好志朗
小間物屋政談 好楽

前座はマッシュルームカットのげんきさん。客席のおばさんからげんきちゃんと声が飛ぶ。
開口一番は三遊亭げんきでおつきあい願います。手短に一席申し上げます。

「侮れない」と今日のタイトルに入れたが、「誰も侮ってねえよ」と言われそう。すみません。
ひと月前に初めて聴いたが、なかなかユニークな新人だなと。
この日はもう、ユニークでは済まなかった。いや、ただ者ではない。
デビューしたての前座なのに、細部に渡って真田小僧に手を入れている。それも細かい部分。
落語協会の前座は、上手い下手は別にしてこんな工夫はしない。つまり、落語界の常識からしていささかやり過ぎており、前座の範疇を微妙にはみ出しているのかもしれない。
微妙に、とつけたのは、たまにいる勘違いしてオリジナルギャグを放り込むような前座とは大きく違うからだ。ギリギリ踏みとどまっているかもしれない。

小児は白き糸のごとしから、葬式ごっこに懲役ごっこ。
この部分、実に軽やかに駆け抜けていったのでまず驚いた。
前座にありがちな説明過剰(教わったままということだけど)がない。
これはもう、間違いなく自身で編集してるのだ。この先も、終始。
よく聴く前座噺の、リズムが違って聴こえるので実に新鮮。
「親が罪重くしたりなんかしまして」なんて説明は当然ない。

火(し)遊びするなと親父が金坊を叱りつけている。火遊びすると寝しょんべんするぞ。
大丈夫だよ、火遊びしなくても寝しょんべんしてるから。
親子の会話が、実に信頼感溢れるもの。二ツ目だって、親子を対立させて描いてしまう演者はざらにいるのに。
金坊が、「おとっつぁんバカだから忘れちゃう」と親父をコケにしても、全然許されて誰も不快にならない状況を最速で作り出している。
金坊が親父から徴収する小遣いは10銭だった。おっかさんからは50銭。
円楽党の真田小僧は得てしてインフレ気味である(円が出てきたりもする)。これだと後半の講釈のくだりができないなと思うのだけど。

親父が出かける先は横須賀だった。明治の落語は普通、横浜なんだけどなんで横須賀なんだろう。地元か何か?
と思ったらげんきさん、大阪の出身らしいのだけど。

おとっつぁん寄席行ったことがある? 寄席は後で払う? そうだよね、あんなところ後で払うわけがない。
まっすぐボケて、ボケっぱなしでよくウケる。最近の若手はお笑いの影響で、この手法が上手いなと思う。
金坊が上手いこと親父から巻き上げていくが、金坊の前に、げんきさん自身の語りがスリリングで上手いことに気づく。
客は先を聞きたくなってくる。気になって仕方ない親父にシンクロしてくるではないか。
とそこに、「10銭はここまででーす」と手を広げて元気よく金坊。
これが、ポーズを入れてちょっとアレンジしてみましたという感じではなく、本当にこの金坊ならこうするね、という妙なリアリティがある。
客席、どんどん湧いていって最後は大爆笑。大きな拍手を受けていた。

いやいや、けろよんさんに次いで5番弟子げんきさんもすばらしい。恐るべき兼好一門、そして好楽一門。
ちなみに本記事で、三遊亭げんきの検索1位を獲る予定だ。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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