大東文化大学落語と講演(下・桂米團治「七段目」)

とにかく父の七光りを、人が思うのに先んじて全面的に押し出してしまう米團治師、対談の最後のほうで言う。
落語は伝統芸能では珍しく世襲制ではありません。血を継ぐメリットがないんですね。
だから二世の噺家で大成した人いないんじゃないですか。
聴き手の荒又先生がツッコめなくて困っていた。

これだけの話術を持つ人が、ここまで卑下をする。卑下まで含めた話術。
反対に、話術のない三平師匠にはできなかったこと。

古典落語の伝承についても語る。
同業者でも、教わったまま、いつも同じ高座を務める人がいる。
教わったままは大事。だが、自分のものを付け加えないと、そこに魂がない。
いつも当ブログでこんなこと書いているので、我が意を得たりと。

最後の最後に、最前列に座る小3のお嬢ちゃんに、「話わかった?」と優しく声を掛けていく。
仲入り休憩を挟んで最後、米團治師の高座一席。
CDの出囃子が延々鳴っているのに、なかなか出てこない。あれ、大丈夫と一同思ったところでにこやかに登場する。

マクラは米團治襲名について。
もう15年になりますがと。
ざこば師にそそのかされる。東京を見てみい、正蔵や三平、木久蔵W襲名と襲名流行りや。大阪のほうは葬式ばっかりやないかい。
米朝に挨拶に行く。ざこば氏が米朝に「こいつ米朝にしまひょ」。
米朝「ほなわしは何になんねん」。

米團治襲名が発表された最初の落語会で師が上がると、拍手が鳴りやまない。感激する。
あろうことかその場で、「五代目桂春團治を襲名します」と間違ってしまう。
楽屋にいた先代春團治、「ぼくはなにになるのかな」。

ざこば、南光の助さん格さんに挟まれて、襲名のあいさつ回り。
またしても春團治のところでしくじってしまう。
春團治、一瞬の挨拶だけなのにわざわざ着替えて出てくれる。「君のお父さんにはお世話になったから」。
その立ち振る舞いの美しいこと。
しかし携帯を春團治宅の前で落とし、さらにご迷惑を掛ける。
さらに分刻みのスケジュール、しびれを切らした文珍師から携帯に電話が掛かってくる。携帯があるのは、春團治宅。
「はい、春團治です」
またそんなこと言うてと文珍師。

もう繰り返し繰り返し話している漫談だろうに、まったく擦り切れていないのがすごい。
見事な緩急も、毎回アドリブで変えてるのに違いない。
師匠方のモノマネももちろん、ますます完成形になっている。
そもそもやや古い世代の噺家である父米朝は、自分語りのマクラなんてスタイル自体なかったわけで。
漫談分野においては、とうに父を超えているのだった。

「せがれはまだか」と始まる本編は、七段目。
究極の芝居噺である。今回の講演と対談からのつなぎとしては、恐らく最適の演目と思う。
あほぼんの話でもある。
私は、オタクの噺と理解している。鉄道落語やアキバぞめきと同根の古典落語だと。
マクラが盛り上がったため時間は残り10分だったが、ちゃんとフルバージョンでやり、若干時間をオーバーする。

芝居がとにかく見事。
いにしえの、芝居に行けない客を楽しませたというルーツを持つ芝居噺を思い起こさせる。
マクラにおける噺家のモノマネと同様、特定の演者を念頭においた芝居をしているようだ。誰かはわからないが。
ただ、先代團十郎だけは時代を無視して具体的に名が登場。何を喋っているのかよくわからないというモノマネ。
私は好きだったとちゃんと語ってるから揶揄ではあるが大丈夫。

ちなみにモノマネではない語りの部分に、誰かの声が混じる気がする。
よく考えたら、これは亡くなった仁鶴の声。
仁鶴師の話なんか一切出ていないし、米團治師との実際の接点が多かったとも思わない。
だが現に仁鶴を感じた。繰り返し名前の出る春團治はじめ、さまざまなところから要素が流れ込んできているに違いない。

若旦那が2階に上げられてしまうのは、大事な来客があるからなのだった。
だから上でドタバタされていると本当に困る。こういう説明は東西問わず初めて聴く。
丁稚の定吉に対して本物の刀を抜くのは比較的早い。
ちゃんとした会で聴けば、ここでバタバタが入るのだろうな。

今改めて米團治師はすごい。
偉大な父の存在を受け入れてしまい、あほぼんのポーズでずっとやり過ごしつつ実はなにくそと奮起する。
そして、他ジャンルから学んだ要素を直接的にではなく、内面のこやしにする。
「米團治」の名跡はそもそも早世した吉朝が継ぐはずであったもの。
しかし今や、この名前をどんどん大きくしていっているのは当代の力だ。

東京でも会はあり、来年のチラシが置かれていたが、気軽に聴いていけるタイプの師匠ではない。
なので、今回の出逢いはとても嬉しいものであった。

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作成者: でっち定吉

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4件のコメント

  1. おじゃましまーす。

    以前、小痴楽師がまくらで上方での落語会で米團治師にお世話になった話をされてました。
    「でもね同じ二世でもあちらは人間国宝、こちらはヤカラ系ですから。そのあと、雑談で米團治師匠が、二世噺家の会をやろうか?王楽さんとか木久蔵さんとか・・・林家は・・・正蔵さんとかって」とここでも三平師いじりがw

    1. 情報ありがとうございます。
      私が感じるのは、米團治師の三平disり、実にスマートだなということです。
      最近、東京の噺家の三平ネタでもう笑えなくなってしまいました。

  2. 米團治師は大のお気に入りで、東京での会はよく出掛けます。
    形の綺麗さとか、醸し出す品みたいなものはやはりお育ちかなぁと思いつつ、いわゆる上方っぽくならないのも好きなところです。
    高座着もオシャレですし、いい意味のぼんぼんと。師の七段目や掛取りなどはその個性がよく見えますよね。
    以前花緑師との2人会を聞いたことがありますが、やはり差があるなあと

    1. いらっしゃいませ。
      目の肥えた方にとっては米團治師は当然に一流なのでしょう。
      ですが世間は、あほぼんと自称するような方を本当に下に見る風潮がありますからね。
      でもあえて自称しているところが立派だなと勝手に思ったりします。

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