亀戸梅屋敷寄席32(その2・三遊亭らっ好「明烏」)

「三遊亭げんき」はさっそく検索で1位になりました。

2番手は三遊亭好青年さん。
スウェーデン人です。日本に興味を持って大学で日本語を勉強し、日本で落語に出逢い、そのまま普通に落語家になりました。
ならないよ。当人はボケっぱなしなので客が内心でツッコむ。
もともとユーモラスな資質のある人なのだろうけど、二ツ目になってますます面白い。
そして、好楽一門らしさを濃厚に感じさせる人である。
日本語はますますナチュラルに。ネイティブ並みとはいかないが、でも個性に収まる範囲。

一目上がり。
冒頭の「賛」が、「しなわるるだけはこたえよ雪の笹」でなかった。意味は同じだが、違うフレーズだった。
勝手に一目上がりの法則を見つけ出すおっちょこちょいの八っつぁんに、演者が見事にシンクロしている。
実に楽しそうに八っつぁんを演じる好青年さん。
アニイのところの回文の説明はなかった気がするな。弁天さまだけ取り上げて、やたら短い。
もちろん、しまいに向けてスピードアップしたいのでしょう。
その結果、きれいにフィニッシュ。

仲入りも二ツ目で、三遊亭らっ好さん。
ちょっと赤が強くてすみませんと。ご本人が緋毛氈の上に真っ赤な着物。おまけに床も真っ赤であるからして。
着物は選ばないといけないですね。
もともとこの高座の後ろは白かったんですけど、予算が余ったらしくてこの紺のカーテンを入れたんですね。
弟弟子で鳳月さんって人がいますけど、この人は着道楽で。
新しい着物を買うとすぐ見せびらかすんです。
ここで紺の着物を着てしまいまして、背景の中に顔だけ浮かんでいるという。
ちなみに円楽党の人は、他の一門でも後輩だと「弟弟子」と呼ぶ傾向がある。

先に出た人「好青年」なんて名前ですけどね、私に向かって「アニさん、今日はいっぱいでもうかりますね」なんて言ってました。
あいつ日本語上手いですね。

弟弟子ができたらっ好さん。この弟弟子とは、本当に好太郎師の2番弟子。
名前を「はしびろ好」というそうな。字はわからない。
私もどんな名前が付くか予想したんですよ、沖縄出身なので「ちんす好」じゃないかと。
でもハシビロコウ。上野動物園にいる、動かないので有名なトリですよね。
好太郎一門は珍獣の集まりになりました。

羽織を脱ごうとして、うまく脱げない。
こんなことではまだまだ二ツ目ですだって。

本編はトリネタの明烏。
普段より多い人数が出るこの日だが、マクラを短めになんとかやりきるらしい。
特に短い内容ではない。

冒頭の場面で、またしても袖から電気シェーバーの音がする。
また好楽師が袖で髭あたってるのか。この音に出くわすのはもう三度目である。
困りますね師匠。宮治に叱ってもらいますよ。

らっ好さんも異音がして困ったろうが、ギャグにしたりはせずにしっかり語りきる。
らっ好さんの明烏、もう4年前になるが神田連雀亭で聴いて、そして激賞した。
その際、こう書いている。

  • 若旦那は子供ではなく、ピュア
  • 源兵衛・太助が、大旦那にお籠りを依頼されたのだと打ち明ける場面がない
  • お稲荷さんの鳥居が黒い理由は、太助によれば「黒く塗ったから」
  • 宴会の場面でパッと羽織を脱ぐ
  • 源兵衛と太助が比較的しっかり描き分けられている

記憶はだいぶ失われているが、書き残しておくと面白いもんだ。
今回は、こう。

  • 若旦那は子供っぽくもある
  • 大旦那にお籠りを依頼されたのは明らかにしているが、手短か
  • 鳥居が黒い理由は、宴会のシーンまで取ってある
  • 羽織は最初から脱いでいる
  • 源兵衛と太助は、終始名前を呼び合ったりして、完全に描き分けてある
  • 若旦那が「吉原の悲劇」を、噺家のように語りだす

大旦那の依頼で連れてこられたのを知った若旦那が「勘当される」と言ってるのはちょっとだけ変だ。いいけど。
源兵衛、太助の完全描き分けは驚いた。こんなに綺麗に分けた明烏は初めて聴く。
登場人物がくっきり立体になり、この効果は高かったと思う。

非常によかったのだけど、個人的な、勝手なマイナス事情がある。
同じ10月に超々ベテラン、柳亭左楽師の明烏を聴いたため、多めのギャグがちょっと障るのであった。鳥居の黒い理由もそう。
若旦那が吉原の悲劇を噺家みたいに語りだすギャグなど実に楽しいのだけど。
もうひとつ、先日取り上げた日本の話芸、林家たい平師の「幾代餅」、あのストレートな一席もまた。

二ツ目には二ツ目の落語がある。そして私は二ツ目の落語を好んでいる。
ギャグ多めがダメなんて言う気はない。あくまでも私の心持ちの問題だ。
落語は本当に難しい。
とはいえらっ好さんは、仲入りの出番が務まる才人であります。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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