亀戸梅屋敷寄席32(その4・三遊亭好楽「小間物屋政談」)

11月3日開催、競馬のJBCの予想番組を前日にTOKYO MXでやっていて、山本昌と一緒に好楽師匠がピンクの着物で出演していた。
それを観て、らっ好さんのマクラがまだあったのをいきなり思い出した。だから、大ネタのためにマクラが短かった事実はありません(すみません)。
三遊亭というのは「飲む打つ買う」の意味ですが、好楽一門はまず「飲む」は必須です。なにしろ私、師匠に入門を願った際、大ジョッキを一気に飲めたので弟子に採ってもらったんですから。
一門で辞めた人は、だいたい下戸です。
打つは競馬です。好楽その他大勢で中山競馬場に行きました。
指定席を取れって言われたんですけども、そんなものどうにもなりません。
そうしたら好楽が、指定席エリアに「好楽ですけど」と言って入っていって止められてました。
でも結局招待席に入れてもらったんです。そしたら隣のブースに前田健太さんがいました。
レースに「アカノジュウハチバン」という馬が出ていました。マエケンさんのカープ時代の背番号です。これは買いだと。
複勝をみんなで買いました。18着でした。
マエケンさんいわく、ぼく今、青(ドジャース)の18番なんで。

馬名は調べたら「アカノジュウハチ」ですな。馬名はそもそも最大9文字だし。
準オープンまで行った馬だ。
ちなみに戦歴に18着はない。2018年1月6日の招福ステークスが16頭立ての16着。これで引退。この日に行ったのだろう。
ネタの嘘を暴くほど野暮な行為もないもんだが。
ともかく、最後「買う」が明烏に続くのだった。

ちなみに番組の〆で、好楽師がなぞかけをさせられていた。
「JBCと掛けまして、私の予想が全レース的中と解きます。ダー、トウでしょう」
ひどすぎる。でも、言い終わる前からカメラが引きになり、ただちにCMに入る切り方が実に絶妙だった。
一応解説すると、「ダート」と「妥当」が掛かっているのです。

そんな愉快な師匠が、二ツ目特集の亀戸のトリ。
今日もピンクの着物。
師匠、髭は洗面所であたってください。お願いします。

10月29日が師匠の命日でした。
私は広島にいたんで当日行けませんでしたけど、王楽たちは行ったそうです。
私も昨日(翌日)お参りしてきました。お寺は足立区にある易行院です。実家なんですね、お寺の子ですから。
広島でも師匠に教わった噺をやりまして。昨日もやったんです。
今日も師匠に教わった噺をやってみます。
圓生から来ている、三遊亭の噺ですね。

小間物屋と、背負い小間物の説明をする。
小四郎という人が、大家に挨拶に来ている。江戸の小間物を上方で売って、上方で仕入れてきますので家をよろしくと。
ということは、小間物屋政談。
これ、三遊亭の噺だったのか。
歌丸師のイメージだし、現場では林家正雀師から二度聴いた(演題は万両婿)。
正雀師は、彦六門下における好楽師の弟弟子だが、出どころは違うわけか。割と似てはいるけども。
ちなみに、仲入りのらっ好さんからも聴いた。梶原いろは亭で。これは、記憶をほじくると、直系らしく今回聴いた大師匠のものによく似ていた。

好楽師をここ数年、よく聴いている。今年も5度目。
「三年目」などたびたび聴くものもあるのだが、一方では「伽羅の下駄」「胡椒の悔やみ」など珍品も出てきて、実にバラエティに富んでいる。
小間物屋政談は初めてだ。そんなには出してないんじゃないだろうか。

小間物屋政談というのは、不思議な噺。
人情噺なのかと思うと、そんなに人情が強いわけでもなく。
では滑稽噺かというと、それほど爆笑でもない。
ある意味、喜怒哀楽のどれかに振り切らない、極めて落語らしい噺。
だが好楽師によれば完全な滑稽噺である。

箱根山中で物取りに遭った気の毒な大店の旦那に親切にしたのはいいが、小田原宿でこの旦那はポックリ逝ってしまう。
上方に向かう小四郎の普段着を借りていたので、誤認されて小四郎が死んだことになり、そして大家の強いプッシュで未亡人は再婚する。
誤認が招く悲劇なんだけども、好楽師が描くのは、このドタバタがもたらす楽しさである。
小間物屋政談は、人の生き死にを楽しく描く珍しい落語だったのだ。

好楽師に掛かると、こんなところが楽しい。

  • 小四郎が、追剥ぎに遭う大店の旦那をまぶしく見上げている
  • 小四郎が死んだので、大家が四十九日過ぎにすぐ縁談をまとめている(女の一人暮らしは危険だから)
  • 小四郎の女房が、新たな旦那(小四郎のいとこ)の優しさにめろめろ
  • せっかく長旅から戻ってきたのに、お前さんが帰ってきたからこうなったと大家に非難される小四郎

誰がやったからといってストーリーが変わるわけではない。
でも、すっとぼけた好楽師が演じると、いちいち楽しいのです。
そして障りになる感情は発動しないのだった。
「大店の主人になったら幸せなのか」「女がグレードアップしたら幸せなのか」
そんな疑問はまったく持たないのです。
小四郎よりいとこのほうを選ぶかみさんも、別にざまあみろでもない。
みんな幸せでよかったねという、不思議な一席である。

高座でもどこでも、とにかく好楽師は面白い。

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作成者: でっち定吉

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