黒門亭17 その3(三遊亭白鳥「座席なき戦い」)

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マクラを続けて、手短に新作落語論を語る白鳥師。
新作作れる人って本当にいないんですよと。
噺家が気軽に「今度新作にもチャレンジしてみます」などというが、そんなものじゃない。私だって前座の頃から作ってようやく今があるんだと。
広瀬和生氏の対談本「落語家という生き方」の中でも、白鳥師は、新作を気軽に教えてくれと言われることに対する反撥を語っている。ここまで練り上げた苦労を知らずに、完成形だけ持っていくのだと。
まあ結局、「マキシム・ド・のん兵衛」とか、教えているそうだけど。

 

だいたい、新作でトリが取れる人が今、どのぐらいいますか。
つまり、マニアでない落語ファンに、普通にウケる人が。
師匠の円丈、喬太郎、彦いち、小ゑん、ここまででしょ? と熱く語る白鳥師。
あ、あと、ももちゃんや天どんもいますか。でも彼ら、よみうりホールの落語会のトリはまだ取れないですから。

言われてみると少ないね。芸協に目を向けても、寄席でトリを取る新作派は、昇太、桃太郎、雷蔵、寿輔、今輔ぐらい?
白鳥師の弟弟子、丈二師も、天どん師に負けずに寄席でトリ取って欲しいものだ。

この日のネタ出し、「座席なき戦い」は、鈴本で一度聴いたことがある。TVの録画も持っている。
私の旧Yahooブログに、検索でかなり訪問があったネタ。「あの5番アイアンのネタ」ということで検索があるようだ。
ただ、鈴本のものはフルバージョンではなかったようだ。この日のフルバージョンは、かわいそうな主人公が警察に連れていかれるシーンまで。
そして、1本500円だったので(ゴルフもしないのに)おばちゃんがまとめ買いする5番アイアンがさらに活躍する。
JALの機内でこの噺、7月に流れるらしいのだが、久々に呼ばれたこの収録の会が大変だったと白鳥師。
ネタ出しの段階から、あれはダメ、これはダメ。もちろん、飛行機が墜落する噺は論外。
インド人のそば屋の噺もNG。
ようやく座席なき戦いと決まっても、NGワードがやたら多くて、ちょっとまずいことを言うとすぐ止められる。そして冒頭からやり直させられるんだそうで。
えー、千円で安いし、行きやすい内幸町ホールだから、一度参加したいと思っているのだが、JAL名人会ってそんな面倒なの?
「私がトリだなんて、名人の出ない名人会です」ってこの挨拶がもうNGらしいのだ。
搭乗する人は、ぶつ切りされたバージョンもぜひ聴き比べてくださいだって。

ちょっと気になるのが白鳥師の所作。マクラで客のほうをあまり見ない。
そんなイメージ、今までまったく持っていないので、この黒門亭の狭い空間でだけ、そうなるみたい。
客のほうを向いているときは、目をつぶっていることが多くて驚いた。本当につぶっているわけじゃないだろうが。

隅の優先席で、横にもたれている主人公の所作は、古典落語っぽい。
師は落語の破壊者ではないのだ。ちゃんと既存の方法論を取り入れ、活かしている。

おばさんが山手線の車内で好き放題する、痛快な噺。
迷惑な人の噺を爽快に語るのが、白鳥師の腕。
師はどんな登場人物にも、温かい目線を忘れない。そんな描写はないのにも関わらず。
これもまた、古典落語っぽいではないか。

おばさんが、ただでもらったマグロの頭をおすそ分けしようとする強烈なシーン。
頭を割くのは無理だったが、目玉を取り出して「おい、鬼太郎」。
JAL名人会では、鬼太郎がなぜかNGだったので、「おい、おに太郎、喬太郎」とわけのわからないことをつぶやいたという白鳥師。
相変わらず、噺の中に唐突に登場しても、一切違和感のない人。

主人公がひどい目に遭っても、まったく不快感のない噺。
すべてが軽く、楽しい白鳥師でありました。

豆情報だが、今月流れているJALの落語は、古今亭菊志ん、三遊亭金遊の両師。
金遊師はその後亡くなったので、2019年2月収録とただし書きが入っている。
菊志ん師、1月に池袋で聴いたとき、JALをめちゃくちゃdisって、最後に「でも依頼があったら受けますよ」とマクラで語っていた。
なんだ、その頃すでに依頼が入ってたんじゃないかよ。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。