梶原いろは亭2(上・立川吉笑「親子酒」)

吉笑 / 親子酒
鳳月 / たがや
(仲入り)
鳳月 / 王子の狐
吉笑 / 一人相撲

落語を聴きに行きたい。ただし、仕事もあるので時間の短い寄席に。
梶原いろは亭の日程を見ると、立川吉笑さんが出ている。ひとつ行ってみよう。割引券もあるし。
平日の若手の会は、1時間半である。2人の噺家が、20分高座を2席。
吉笑さんの相方は、二ツ目に昇格して間のない、円楽党の三遊亭鳳月さん。
この人が正直やや不安。先日初めて聴いて、悪い印象は特に持っていなかったのだが、時間がたっぷりあるこの会だとどうだろう。
だが、吉笑さんも鳳月さんも見事でした。

前回は尾久駅から行ったが、今回は上中里から。
踏切を渡る際、左手にいろは亭、右手にスカイツリーが見えることを発見。写真を撮ってみたのだが、全然ピンと来ないデキ。
500円の割引券を出して700円で入れてもらう。そして、また割引券の付いたプログラムをいただく。
茶菓子がつく。前回は「都電もなか」だったが、今回は蒸しどら。
お客はつ離れしたかしていないかというところ。落語ディーパーでおなじみの吉笑さんでも、こんなもんだ。

立川吉笑「親子酒」

吉笑さんは3度目なのだが、毎回衣装が一緒。
うぐいす色の着物に、山吹色の袴。
たまたまなのかもしれないけど、落語ディーパーのときもこの衣装だ。
「立川流というちょっと変わった団体にいます。別に皆さんに危害は加えません」と挨拶。
正月に麹町の無料落語会で聴いた、昨年骨折したマクラ。その後、骨折の原因である酒をピタッと止めて、無事1年経ったそうで。
20分なのでマクラは短めに、病院で出くわした一般人の「おだゆうじ」さんとのエピソードに特化する。
そこから古典落語の親子酒へ。上方バージョンではなく、江戸落語。
落語ディーパーで、「古典は全体の1割。もっぱら地方で掛ける」と語っていた吉笑さんだが、2席あるので1席は古典ということだろう。

古典落語に現代的なギャグを入れる噺家について、「落語に新しい風を吹き込んだ」などと高く評価する向きがある。
なにか違う気がする。
確かに一之輔師や白酒師など、こういう技が得意である。だが、評価すべきなのは、聴き手の常識を裏切るギャグがたまらなく面白いという「質」の問題なのであって、別に「現代的である」かどうかではないだろう。
実際、二ツ目さんでも、江戸・明治の時代設定にピタッとハマる、古典的新規ギャグを入れる人もいる。むしろ、時代小説を新たに作り上げるようなこちらの手法を見ると、いたく感心する。

で、吉笑さんはというと、古典落語の中にいきなり現代をぶち込むことはしない。
では、時代小説のような、背景にマッチしたギャグか。そうでもない。
神田連雀亭で聴いていたく感銘を受けた「十徳」もそうだったのだが、吉笑さんの登場人物の行動は、自由である。
親子酒の親父は、久々の酒にありついて、一人で寸劇を始める。
古典落語の世界の中で、寸劇を繰り広げても破綻はしない。「二階ぞめき」だと思えばいい。
とはいえ、典型的な親父のありようとも異なるものだ。
吉笑さんは、まったく新しい領域でギャグを探すのである。
玄関から酒が入ってきて、これを迎える「胃の中の人」という妄想劇がいきなり始まるので、婆さんは呆れている。
そして、息子孝太郎が帰ってきて、婆さんが「恥ずかしくないですか」と語りかけると親父は、「私はなにも恥ずかしい生き方はしていない」と返す。
ギャグは新しいが、やっていることは古典落語でおなじみのコミュニケーションギャップ。

いやあ、これはトータルで、真の意味で新しいなあ。
だが、既存の親子酒にもちゃんとフックが掛かっている。飲むにつれて酔っぱらってしまい、理性を失ってただの酔っ払いになるという点については動かさないのだ。
だから既存のサゲがしっかりハマる。
さすがだ。

続きます。

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作成者: でっち定吉

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