ドラマ「昭和元禄落語心中」第8話

「台東文化センター」(福生市民会館だそうだ)で与太郎の落語会。週刊誌に前歴がスッパ抜かれ、あまり入りはよくない。
男の道楽を振って「錦の袈裟」へ。自分の落語をやらなきゃと、師匠の言いつけを思い出すものの迷走気味。
高座でもろ肌抜いて彫り物を見せつけ、これが自分の落語だと言い張る与太郎。
アニメのときにこのシーンにつき、「肌襦袢はいったいどうした」という見解を見た。ちゃんとドラマでは、襦袢ごと脱いでいる。
与太郎に、人間の業について語る八雲師匠。
このあたり、立川談志を引いてきているようである。談志のフレーズそのままは使っていないが、言ってる内容はいわゆる「業の肯定」である。

下宿で、前回と同じく大工調べの稽古に余念のない与太郎。
与太郎の部屋には、神棚に当たる位置に先代助六のレコードが飾ってある。
隠しごとのねえ人間なんて色気がねえと萬月に語るが、これは与太郎の本心ではない。
下っ端じゃねえ、真打だと親分の元に押し掛け、自分の半生を語る与太郎。披露目が始まる前は絶対に二ツ目なのが落語界の掟だけどな。
大工調べを稽古していたので、棟梁の啖呵で与太郎、自ら興奮してしまっているのであろう。
彫り物があろうがなんだろうが、落語は、そのままの人生でいいようにしてくれると。
親分に、自分でも意味の分かっていない大工調べの啖呵をぶっつける与太郎。ちんけいとう、いもっかじり、あんにゃもんにゃ。
八雲師匠は隣の座敷で、やりとりを聴いて喜んでいる。
この瞬間、与太郎の自分の落語が完成したわけだ。
大工調べの稽古を本当につけたのは、クレジットによれば隅田川馬石師のようである。
弟子ってのは勝手に育つものだと、親分に対して師匠は話す。いい言葉である。
師匠は手取り足取り弟子を教育するものではない。
たとえば柳家さん喬師は、一番弟子の喬太郎師に対して、とにかくこの才能の芽を摘むようなことは一切しないとだけ考えたそうで。

八雲師匠と親分、交際があるのは21世紀の現代的にはもちろんNG。
だがまあ、落語だって芸能であるし、タニマチも必要。ひと昔前はつきあいはざらにあっただろう。
先代林家正蔵(彦六)と山春なんて有名。
ある極めて有名な師匠は昔、その筋と盃を交わしたなんていう。
こんなことを高座でネタにする人もいるのが、シャレのキツい落語界というところ。

与太郎と小夏が会話を交わす橋は、ドクターXでもおなじみ、小名木川に掛かる萬年橋。浅草じゃないけど。

眠る臨月の小夏に対して、子守歌に助六のあくび指南を語る八雲師匠。
ただ、八雲師匠もまた、子供の頃の小夏に対してこの噺を語っていたらしい。
披露目の準備が忙しくてくたびれたという八雲師匠。これは本当にそうみたい。弟子の多い噺家は大変だ。

八雲師匠が与太郎の下宿に押しかけ、芝浜の稽古をつける。
先代助六のネタであり、死の直前に掛けた演目である。助六を襲名する与太郎のためにつけてくれたのだ。
いいシーンですね。アニメより進行が速いけども、ちょくちょくこういういいエピソードが入る。

奇術の「グーニー太郎」(なんちゅう名だ)は、落語協会の色物、伊藤夢葉先生。真打昇進披露のヒザ前。
ところで先生の熱演の最中に、小夏と松田さん、席に座るのはいただけない。ど素人じゃないんだから。
アニメ版よりずっとアラの少ない実写ドラマだが、ここ突っ込み多そう。落語の最中の出入りよりはましにしても。
あと現実の浅草は、指定席じゃない。
披露目は、トリだけ聴くんじゃなくて口上を観ないと面白くないけどね。
後ろ幕が見事だが、現実世界ではだいたいスポンサーの名前が入っている。
当代助六は、マクラなしで芝浜。芝浜というアイテムを手に入れたことで、ついにジェダイ(真打)になったのだ。

無人の浅草雨竹亭の高座に上がり、助六の形見の扇子を前に、寿限無を語る八雲師匠。
なんという祝い(および安産祈願)の形であろうか。
当ブログでは何度か書いているが、寿限無は寄席に通っていてもなかなか聴けない、ある種幻の噺である。
といっても、どの噺家さんでもだいたいみな持ってはいるようだ。学校寄席などでは頻繁にやっているらしい。
八雲師匠の語る寿限無の言い立ては、当然ながらNHKが「にほんごであそぼ」等で全国に広めたバージョン。
まれに高座で寿限無聴くときは、このバージョンでない場合のほうがむしろ多い。まあ、雲来松が雲行松に、ブラコウジがヤブコウジに、ポンポコピーのポンポコナーが逆になるくらいで大差ないけども。

信ちゃんを難産の上に出産した小夏は、与太郎と結婚を誓う。
親分の前で啖呵を切ったこともあるが、なにより披露目で掛けた芝浜のおかげなのだろう。
やはり、落語の周りに家族が集まっていくというのが、物語を貫くひとつのテーマである。
だから、新真打助六は、師匠の家に住もうとするのだ。
師弟関係で受け継がれていくものもあり、血縁関係で受け継がれていくものもある。信ちゃんもまた、跡継ぎになっていく。
この点も、スターウォーズを連想させる。

ところで、先代助六とみよ吉が転落死したのは八雲師匠の作り話だが、松田さんは事件の真相を知っているんですな。
芝浜は、現実を夢にしてしまった物語の象徴に使われているのである。

続きます。

作成者: でっち定吉

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