池袋演芸場30(上・林家きく麿「珍宝軒」)

天歌(現・馬雀)裁判の判決が出ましたね。弟子の勝訴。
結果は当然として、判決が出たこと自体びっくり。民事訴訟なんておおむね和解で終わるもんだし、判事としても和解に持っていくのが腕の見せ所なんだ。
原告が強く判決にこだわったのだと思うけども。
当ブログもお陰で昨日は大盛況。

そして、紙切りの林家正楽師が急に亡くなったとのこと。合掌。

さて、今日はとりあえず寄席のレビューを。
ちょうど落語協会の席である。主任は金原亭馬治師で、昨年暮れから行こうかと思っていた。
池袋の下席昼というのは、もともと私の大好きな席であった。若手真打の主任が多く、時間も3時間でちょうどいい。
ただ、2,000円だったのが2,500円に上がって以来、足が向いていない。
もともと2,000円が安すぎたのであり、妥当な額だと思ってはいるのだが、行く方からすると席は選べますからね。
ところで東京かわら版によると、この1月下席は2,800円とあった。
そりゃ高すぎると思ったのだが、間違いだったみたい。池袋のサイトを見たら2,500円である。
なんとなく得した気分になって出かけます。テレビ通販で買い物してしまうバカの発想だが。

狸の札歌ん太
無精床小駒
荒茶志う歌
珍宝軒きく麿
笑組
支度部屋外伝歌武蔵
辰巳の辻占馬生
(仲入り)
魚男志ん五
初天神しん平
ストレート松浦
笠碁馬治

客も40人程度。落語協会の席にしては少なめだが、でも満足度は非常に高かった。くつろぎの平日。
こういう席をずっと探しているのだ。

前座は三遊亭歌ん太さん。歌武蔵師の弟子だ。前座香盤は下から3人目。
沖縄、読谷村出身ということだから、立川笑二さんと同郷だ。しかし沖縄出身の噺家も増えましたな。

動物の出る噺がありますと振って、たぬき。
狸の子供を救い出す場面から始まる長いバージョン。
この場合、主人公に向かって子供が「仲間だな」というシーンがある。これが手短かなのに好感を持つ。
口調はオチケン上がりだろうなというもので、前座としてはごく普通。
だがこの人、噺の細かい編集が上手い。なかなかの掘り出し物である。

狸の小噺で、「子供たちの遊びに交じろうとして化けるのを忘れてた」というものがある。
これを、本編中に収めていた。狸の子供は、それで捕まっちゃったのだ。
こんなやり方は、誰からも教わらないであろう。
そして、クスグリを強調しすぎない。勘違いした前座が、一生懸命ギャグを言う、そんな様子はかけらもない。
口調がプロっぽくなれば、出世する人だと思う。
新作をやる可能性もあると思う。

二ツ目は、主任の弟弟子である小駒さん。
またしても無精床だ。3席連続、無精床。
ここで非常に眠くなって、ほぼ寝てしまった。

最初の真打は、三遊亭志う歌師。
馬雀さんのFRIDAY記事について、披露目の最中にやりやがってとケチをつけた男。
それはまあ、彼にも彼の正義があるわけだから許せないことはない。
それはそうと、NHK新人落語大賞を獲ったのに伸び悩んでいる人。
嫌味っぽいキャラがどうもなあ。ご本人としては「キザ」ぐらいのイメージなのだろうと思うけど。

早速、昼間から来ている客をちょっと揶揄する。お仕事のほうは大丈夫なんでしょうかと。
私の嫌いなヒルハラに限りなく近い。
自分がバカになって言うならどうということはないのだが、なにしろ嫌味キャラだから。
嫌味キャラのやる「荒茶」は、嫌味な一席。
結構ウケてたからどうこういうもんでもないが、私は好きじゃない。

この池袋下席は、前座から4人落語が続く。
4人目はお目当ての林家きく麿師。
故郷である北九州市の話。北九州は全国のヤクザの6割が出た街。
小さい頃はよく発砲事件があった。父の通ったパチンコ屋でも発砲があった。
台は出さないがタマは出す。撃たれた人をパチンコ屋の旗で止血して、出血大サービス。

独特の語り口がそもそもおかしく楽しい。
いかにも新作らしい特徴的な語りだが、実は古典の人でも使って構わない、抑揚を排した棒読み手法である。

地方の言葉を題材にした噺だと振って、「おい与太郎」。
これは知っている。珍宝軒だ。北九州版金明竹であるが、道具七品は出てこない。
結構オリジナリティが高く、古典パロディよりも一段上の存在。

与太郎がしでかしたので叱られている。
古典落語の金明竹には、与太郎が赤ちゃんにかかとの皮を与えるシーンがある。これを膨らませる。
なにを与えたかというと、レバ刺し。
赤ちゃんにさらにひどいことをしたので、おじさんが謝りにいって不在になるという合理的な展開。
そこに九州弁でまくしたてる男が登場し、言い立てていく。

言い立ては、金明竹よりはそこそこわかるが、でもやはりよくわからない。
長崎思案橋の中華饅頭を男が食べてしまったことについての釈明と、九州各地の美味いものをセレクトしておいてくれという2つの依頼らしい。
わからなさと、わかる度合いが絶妙である。もちろん九州でやってもウケるのだろうけど。
幸せな一席。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. ご無沙汰しています。うゑ村です

    正楽師匠の訃報残念でしたね。まさに名人芸だっただけにそれを見られなくなるのは寂しい限りです。誰になるかは分かりませんが今後紙切りのような色物で人間国宝になる方が出てくるといいですよね

    1. いらっしゃいませ。

      正楽師匠は、晩年はもう高座の組み立てがめちゃくちゃだったように思いますが、それゆえに面白いすごい方でしたね。
      たぶん二楽師が次の正楽になるのだと思いますが、あそこまで行けるでしょうか。

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