チャリ亭@らくごカフェ(上・春風亭朝枝「真田小僧」)

予約を入れておいた会があり、連日で出かける。
春風亭柳枝師主宰の「チャリ亭」。能登地震のチャリティー落語会。
木戸銭3,000円は全額寄付とのこと。その他チャリティーオークションも実施。

メンバーがすばらしいので予約を取った。私自身が震災復興に貢献している自覚はあまりない。
私は木戸銭を払うだけ。らくごカフェと演者がそこから利益を得ずに、被災地にまわすのである。
偉いのは演者とハコだけ。特に、すぐに会を取り仕切った柳枝師は偉い。

神保町駅を、小学館側の出口から出る。変わったことはなにもないが。

この日のメンバーは、入船亭扇辰、柳家吉緑、春風亭朝枝。
若手チャリティなのに、扇辰師も混じっている。最初メンバー見たときは、扇橋師に見えた。
この2月1日が初日。この先も多数チャリ亭は開催される。
まだ席があるそうなのでぜひお出かけください。

オープニングトーク 柳枝・小燕枝
真田小僧 朝枝
刀屋 吉緑
仲入りと、オークション出品紹介
甲府い 扇辰
エンディングトーク 一同

らくごカフェは先月来たばかり。
着くと、今日の顔付けにない柳亭小燕枝師がいて、お客さんと話をしている。番頭らしい。
なんだか、高い笑い声が芸能人っぽい。
席の後ろには柳枝師。

柳枝、小燕枝の両師が前に出て、開演。
私服なので、「お互い落語家には見えませんけど」。
今日の会の説明。チャリティーオークションもありますと。
帰りの際は募金をお願いします。
みなさん、現金持っていらしてますよね。ジャラジャラしたのでなく、軽いほうがいいです。
いえ、もちろんお気持ちです。
チャリティーといっても、そこは落語会、大いに笑ってください。

トップバッターは春風亭朝枝さん。
今回もすごかった。それも前座噺の真田小僧でなあ。

平日にこれだけお集まりいただいてありがとうございます。
もちろんこの賢い若手は、「仕事はどうした」などと余計なことは言わない。賢くない若手は言う。

小児は白き糸のごとしと振って、葬式ごっこに懲役ごっこ。
すでに面白い。
本編もそうなのだが、落語好きの脳内テキストを軽く裏切ってくるところが見事。
といっても、詳しい人しか笑わないということではなくて、基本に忠実でもあるという嘘のような芸。
間合いがいいんだよな。音楽で学んだのだろうか。

葬式ごっこで、「金ちゃん、今日も死んでくれ」。
こういうところです。ありきたりのマクラを初めて聴く人にも、脳内テキストができ上がっている人にもウケる。

時季的に初天神かと思ったら、真田小僧。
小遣い要求は10円からスタートだった。落語協会から聴く真田小僧の中では、一番インフレが進行している。
基本、ストーリーは裏切らないけども、あさっての分をあしたもらうくだりはない。
冒頭の湯を沸かすくだりがたっぷり。

金坊が外に遊びに行くからと親父に謎を掛ける。
「子供が親にもらおうてんだ。まさか」
落語好きの脳裏には、「命」というワードが浮かぶ。ここでもって
「年金くれとは言わねえや」
また、やられた。

おっかさんに口止め料として、小遣いもらうくだりは、金坊がカミシモ振ってミニ落語として再現する。やり取りを親父に返す呼吸でもって笑ってしまう。
世の中には、何喋っても面白い人がいるもんだ。
それもフラではなく、技術100%。できない人には一生無縁の領域。

珍品も手掛ける朝枝さんだが、前座噺の面白さはもう、すごい。
前座噺にも、隠れた引き出しが無限にあるのだ。二ツ目になったら皆さん探して欲しいものである。
噺そのものを習うんじゃなくて、朝枝さんから引き出しの見つけ方を学ぶといい。でも、見つからないだろうな。

朝枝さんの金坊は、無理やりにこまっしゃくれた子供ではない。
知識よりも、知恵で動く子供である。ある種非常に子供らしくもある。
知恵のある、子供らしい子供。そんな造形、ないだろう。

再現シーンで、おっかさんが布団を出してる。
親父が「座布団だろう」。「ううん、寝具」。
寝具、という言葉のチョイスのすごさ。
寝床の「がんもどきの製造法」を思い起こした。

二番手は、NHK新人落語大賞で一気に格を上げた柳家吉緑さん。
現場で何度も楽しませてもらっているが、一番よかったのがあの放送。上回る高座に出逢いたい。
朝枝さんが笑わせていったので、空気を変えて人情噺。
お店のお嬢さんと奉公人ができてしまうなんてことがありまして、と刀屋。
花見小僧だと思ったけど。

若いのに、刀屋の主人の造形が深くて驚いた。
最近、実年齢を超える風格を出してくる若手について考えている。
別に演者が老成している必要はない。
年輪を重ねた人間の、表面に映るものだけを描くようにすればいいらしい。
省略が、思わぬ深みを生み出す。

続きます。明日も刀屋から。

 
 

作成者: でっち定吉

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