チャリ亭@らくごカフェ(下・入船亭扇辰・噺家の震災支援のありかた)




刀屋という噺はそうたびたび聴くものではないが、いずれの演者にも統一する気配というものはある。
刀屋の主人はおおむね、徳三郎を軽く見ている。
徳の野郎が万一血迷った行動に出ても、腕に覚えもあるのだろう。
あらゆる面で優位にあるので、この若者の相手をするのをちょっと楽しんでいる。
そして、決して人が悪いわけではないが、ちょっと徳をおちょくっている。それが、人情噺の笑いのスパイスになる。

吉緑さんのはまるで違う。
若者を軽んじる気配はない。真剣に向かい合っている。刀屋だけに。
あなたにはこれを、と木刀を出してくるシーンも、結構マジである。
年かさというだけで若者を甘く見る人が、吉緑さんは好きじゃないのだろう。
刀屋の主人の造形がこうだということは、若手の噺家に失礼な口を利く客もきっと嫌いでしょう。そんなの好きな噺家もいないだろうけど。

真剣だが、それゆえに引き込まれる。こっちのほうが正解なんじゃなかろうか。

ところで、刀屋には勘当した息子がいる。だから徳に対し優しいのだ。
これが、噺の終盤の伏線となる。サゲが違う(身投げの後が長い)のだ。
自分で考えたのか? だが、いかにも師匠が作りそうな噺だとも思う。
そして、まったく忘れていたのだが、弟弟子の緑助さんから、かつてこのらくごカフェで聴いたスタイルでもある。
「柳家花緑 刀屋」で検索したら、忘れていた一席がヒットして驚いた。
緑助さんのものは身投げ以降の展開がピンと来なかったが、吉緑さんは貫禄も出てきてさすが。
おせつ徳三郎は一緒にしてもらい、刀屋一家のサイドストーリーも大団円という幸せな一席でした。

仲入り休憩を兼ねて、オークションの紹介。
出演者がそれぞれ持ち寄っている。
扇辰師の昇進時3点セットとか。扇子は最後の1本とのこと。
奥さん(覚和歌子)からの出品も。
吉緑さんは、ウクレレ。
コロナのときに練習したけど、別のを買ったから要らなくなったらしい。
初心者用なんで高価なものじゃないですとのこと。
先の高座のマクラで、持って帰るのはイヤなのでなにとぞ入札をと言ってた。
欲しい人が入札(額はシークレット)。

トリの一席は、扇辰師。
久しぶりにここ寄せてもらったけどね。工事もしてるし場所わからなくなってね。
行列があったんでここかと思ったら、カレー屋だったね。

震災でいてもたってもいられなくて、何かしたいけども、今行ってもね。
苦い思い出があってね。
中越地震のとき、私の地元が被害に遭ってね。
現地に行って、避難してる体育館、これたまたま私の母校だったけどもね、ここで落語させてもらったんだけど。
今みたいに、テントの仕切りもなくて、みんな雑魚寝だよ。
その隅っこで落語やってもね。そりゃ、好きな人は集まるけどね。
朝から政治家とか芸能人とか、たくさん慰問に来てるんだよ。
私がやった前日には、小林幸子と田中真紀子が来たって言うんだよ。
そんなもん、落語家風情が来てもね、かなわないよね。

現地は迷惑だなって思ったね。
だから東京で支援の会やることにしてさ、白鳥アニさんに声掛けたよ。
残念なことに同郷だよ。
あのアニさんには珍しく、いいよって言ってくれてさ。
結構、驚くぐらいカネが集まったのよ。
それであのアニさんが言うのさ。扇辰、儲かるな。
バカ野郎、お前にはやらねえよ、みんな寄付するんだから。
あの人はこういう会、最初から呼んでないと思うけどダメだよ。
絶対これ(ポッポナイナイ)するから。

今日はね、若手の会だけども、志願して混ぜてもらったんだよ。
なにかしたくてね。
柳枝さんは偉いよね。こうして仕切ってくれて。
小燕枝さんはよくわかんないけどね。

その後東北の震災があって。
今度はすぐは行かなかったけど、つながりができてね。
陸前高田で年1回会をやってるよ。
最初はみんな笑わなかったね。後で聞いたら、笑っていいのかって思ってたって。
10年はやろうと思ってたけど、その会がコロナで3年間空いちゃって。
こないだ久しぶりに会があったんだけど、もういいだろうと思って片棒掛けたら、そりゃもう笑ってくれたよ。

今度の震災でも現地に入ることの是非が問われているが、扇辰師は行って後悔したクチ。
何かしたいけども、できることは限られている人間のジレンマ。
それはそうと、このマクラはとても人をくつろがせてくれるものだった。明らかに、繰り返し語る内容でもなんでもないのに。
震災の被害を案ずる内容、そして後悔でなあ。
話芸ってすごい。
俺はこんなにいい人なんだよというアピールに見えたって不思議ないところだが、実にストレートにこちらに染み込んできた。

本編は甲府い。チャリティーにはぴったりな噺。
劇的な要素のほぼない、人の善意を集めたいい噺。

地味ないい噺を持たせるためにギャグを入れるのは普通だが、扇辰師はむしろ刈り込んでいく。
語り口だけで乗り切れるのだ。この師匠が語っているだけで楽しい。
数少ないギャグは、親方が新吉に向かって、たまには寄席でも行けというくだりぐらい。聴かないと人間、ダメになるぞ。

会の締めは、全員でトーク。
オークション入札の発表があり、最低落札価格5,000円のウクレレも無事売れた。
みんなでサインして渡すらしい。

帰りに募金しようとして財布から札を出したら万札だった。
ここの木戸銭で千円札を使い果たしてしまったのだ。
さすがに万札は出せない。
お釣りくださいって言いそうになったが、結局募金箱を持つ柳枝師に謝って帰ってきた。ああ恥ずかしい。
キャッシュレスの募金も受け付けてくれたらね。

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作成者: でっち定吉

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