古典落語を演者にフィットさせるものは「熱量」




先日、堀井憲一郎氏の書籍を取り上げた。
これは文章を書くことについての本である。だが、これを読んで、落語のうまいへたについてもヒントを得た気がした。
正確にはうまいへたではない。
ライターが書くべき文章が、文学的に価値が高いかどうかでないのと同様、落語も尽きるところは面白いかどうかであるが。
でもまあ、技術面から探っていけば、スキルの上下という基準になる。

上手い人にはとうに見えている景色が、下手な演者には見えない。
下手に景色を見せようとしても、視力がないのでわからない。
センサーを持っていない人間に届けるすべはない。だからうまいへたが早いうちから分かれていく。
「化ける」こともあるが、残念なことに多くはそのまま。

噺家の実力につき、私なりに腑に落ちたのは、こう。

  • 上手い噺家は、語りたい要素を自覚していて、客に伝えたい
  • 下手な噺家は、噺をごく表面的に捉えていて、中身に対する自覚がない

これでもって、前座から真打までおおむね紐解けると思っている。
上手い人には、噺を語る熱量がある。ない人はカラッポなので退屈してくる。
熱量と言っても、熱く語ればいいわけではない。
むしろ、抑えた語り口の人の中に、熱量があることが多い。語りたい要素を客に届けるために、口調を生み出したのだ。
熱く語ると、客からの拒絶も強くなる。拒絶されるともう、届けたくても届かない。
こうした演者の一番やりたいことが「強く語る」だったとしたなら、その演者には語りたい要素はなにもない。

こんな中身のない噺家の代表が、林家三平師。
笑点でもそうだったし、高座でもいまだに客に伝えたいことがなにもない。カラッポなのだ。
笑点ですぐ「上手いことを言おうとする」のもこうしてみると改めて腑に落ちる。客に伝えたいことがないので、客が求めることもわからない。
客の望んでいないことを一生懸命やって、そして降ろされた。
比較的贔屓筋の多い(アンチもいるが、来ない)浅草にしか出番がないと、一般的な客の求めることを探らなくてもやっていけるのだ。ますます取り返しがつかない。
語りたいことがあれば、客にどう伝わっているかが気になる。ない人は、気にならない。

三平はまあ、出自によって最初から注目されていたのだが、実際には売れない二ツ目さんにこんな人が多い。
オレの噺を聴いてくれという熱だけ持っているが、真に語りたいことは特にない。
こうした演者は、「スタンプカード芸」をする。
スタンプカード芸は私が作った言葉である。先人から引き継いだクスグリを丁寧に、全部入れていく芸。
丁寧に入れていくたびにスタンプが押されるのだが、たまってもなにとも引き換えられない。
語る熱量を持っている人は、こんなことはしない。
必ずしも、オリジナルのギャグをブッこむということでもない。これはむしろ新作落語をやるテンションに近いだろう。
熱量のある人は無数に入っている先人のクスグリのうち、自分が本当に使いたいところだけ使う。
噺の側からすると、編集ということになる。
本当に届けたいと思っているクスグリならば、客に届き、そして揺り動かす。誰もが入れて、とうに擦り切れていると思ったクスグリが破壊力を持っていると、これは驚く。
そしてその部分、実際に演者は楽しいのだと思う。

スタンプカード芸は、なんだか知らないが順序よくクスグリを入れていくので、演者の側もただの作業になる。客は楽しくない。
どうしてこんなことをするのだろうか。前座が、師匠から「おせえた通りにやれ」と言われ実行しているのならわかる。
まずは教えられた通りにやれないと、編集以前の問題だ。
だが、二ツ目になって独り立ちしているのに、教わったとおりにやったって、面白いわけがない。教わったとおりにやる熱量なんてないのだから。
実際には前座さんだって気の利いた人は、編集をしているものだ。楽屋に叱られない程度にやっている。
そういう前座の落語は面白い。勘違いして、前座噺を破壊する困ったちゃんもいるけども。

熱量が圧になる人も中にはいる。
桂竹千代さんはこんな人。この人の場合、古代史落語の世界を客に届けたい、強い熱量を持っている。
古代史落語は新作だが、同じように古典落語も手掛ける。
だが、語りたい中身のない演者がこの真似をしてもダメである。熱量の中身は真似られない。
師匠からも誰からも、語りたい中身は教わることができない。自分で考えないと。

今日はちょっと抽象的すぎてすみません。
だが、今後たびたびこの記事に、私の新しい記事からのリンクが飛んでくるはずだ。
抽象論ではあるが、具体的な事例に当てはめられるはず。

作成者: でっち定吉

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