神田連雀亭52(下・瀧川鯉白「人間こわい」と雪景色のマクラ)




トリは久々の瀧川鯉白さん。鷹治さんとは芸協カデンツァ仲間。
連雀亭の演者はランダムに割り振られる。中には組み合わせの悪さのためか、なかなか機会のない人も。
気にいった人がふたりいればGoだが、ひとりだけで、あとは嫌いな人とまるで知らない人となるとちょっと。こんな日によく鯉白さんは入っているのかも。

この人も、足元の悪い中ありがとうございますと。
鷹治さんも言ってましたが、私も昨夜、中止の電話が来るのを待ってました。
鷹治さんも靴がびしょびしょになったと言ってました。私は別に雪かきはなくて、昨夜吉野家に行ったぐらいです。
休みたいなと思うこともありますが、来てみるとやっぱりここはいいものです。

先週ここに出た日は、高座のあとで内視鏡を入れる予定があったんです。
内視鏡を入れるときは、先にバリウムですか(下剤だと思うけどな)、あれを飲んでおく必要があるんですね。
うちで飲んでくるか、クリニックに来てから飲むか訊かれたんです。
うちで飲んでおくと、すぐに内視鏡を入れられます。クリニックで飲むと、2〜3時間掛かります。
なのでうちで飲むと言いました。お医者さんが、その日は仕事とかないですよねと確認します。
いえ、あるんです。短いですけど。落語家なので。
お医者さんが、力入れなければ大丈夫じゃないですかと。
ちょっと微妙です。
伝説の舞台になるかもしれないですねと言われて、結局うちでは飲まないことにしました。
ここの楽屋で文吾さんにその話をしてたら、アニさんだけ茶色い座布団でどうぞと言われました。
なので私だけ、茶色い座布団で出ました。別に家では飲んでこなかったんで、意味はないんですけどね。

汚い話をキレイに(でもないけど)語る変人。
面白いじゃないか。

雪を見ると思い出します。デリヘルの店長(故郷・鳥取で)やってたときの話です。
鳥取、降る年だと結構雪積もるんですね。
運転手がいないときは、店長の私も運転します。出たり入ったりがあるので、女の子がマフラーをくれました。
好みじゃないんで結局、実家に置いてました。
このマフラーが20年ぶりに実家の大掃除で出てきまして。母が、これもらっていいかと写真を送ってきたのを見たら、マフラーとともに雪の光景を思い出したんです。
ラブホテルなんてところは、雪が積もるような場所にあるわけですよ。
鳥取の雪は一気に積もるので、スノータイヤに履き替える暇のないときがあるんですね。
私運転下手なんで慎重に運転してたんですが、踏み外して雪に突っ込みました。
仕方ないので、送迎中の女の子に手伝ってもらいます。いえ、彼女が免許持ってればハンドル握ってもらうんですがないので。
私が運転席でバックに入れて、すでに仕事用のひらひらフリルのついた衣装に着替えている彼女が、雪の降りしきる中、外で車を前から必死に押すわけですね。
その様子がライトに照らされて。
そんなキレイな光景を思い出しました。

全部書いちゃって鯉白さんには申しわけない。あまりにも面白くって。
見事だなと思ったのは、最後の、雪の中で車を押すデリヘルの女の子の、ある種神々しいその画のために話がすべてつながっているということ。
「客の脳裏に画を浮かばせる」のは、噺家の能力のひとつ。それをまざまざと見せてくれた。

ここまでなお、本編なにをやるか悩んでいるとのこと。
今日のお客さんは特別ですからねと。
引きこもり男の家に、仲間が無理やり入ってくる。浅間山荘以来の大型鉄球で壁に穴を開けて。
引き込もってじゃダメだ。仲間がついてるじゃないか。

ああ、Zabu-1グランプリで出していた、「人間こわい」である。
「にんげんこわい」という表記もあってブレている。今日のブログのタイトルはホワイトボードにこうあったのと、あとは検索に掛かりやすそうなほうを。

登場人物は大勢だが、名前が出てくるのは引きこもりの「トモヒロ」と仲間の「コウイチ」。
前者は兄弟子・鯉津の、後者は昔昔亭喜太郎さんの本名だと思う。ともにカデンツァ仲間。
人の家をぶっ壊して乱入しておいて、のんきに「怖いものの言い合い」が始まる。
クレージーでサイコパス大集合の噺。演者の分身。

最初のヤツは「饅頭」と答えてスルーされる。
いろいろ訊いたあとで、引きこもりのトモヒロにも怖いものを尋ねると、「人間」。
コウイチがトモヒロをビンタする。なにするんだよ、落語界は暴力がいちばんダメなんだぞ。

最終的には、演者が座布団を握りしめてかつカミシモ振りつつ、人と人とのつながりを確かめあう。
そして感動で終わるかと思うと、やはりラストがぶっ飛んでいてふざけている。

たまらんですわ。
古典とか新作とかを超越した、これが話芸だという逸品。

寒い日であるが、サイコな噺でなぜか心に火が灯ったのでした。

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作成者: でっち定吉

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