拝鈍亭の橘家圓太郎3(中・馬の田楽)

馬の田楽は、田舎が舞台で、登場人物は全員田舎もの。
馬が来ているのに平気で待たせて種まきしてる百姓、馬にいたずらをするタチの悪い子供、耳の遠い老婆、どもり、話の無駄に長い奴、もうでたらめな人ばかり。
ひと昔前の言葉狩りの時代には、存在すら抹消されかねない。
でも、時流に逆らってシークレットで掛ける演目ということでもなくて、極めて落語らしい世界が描かれる。
やらないともったいない。二ツ目さんも教わって欲しい噺。

白酒師の馬の田楽はナンセンスっぽかった記憶がある。
圓太郎師のものは、登場人物のトンチキ具合がより強い。ああ、事前にフリが必要な理由もよりわかる。
馬に何をしたか子供から訊き出す際、いちいち「馬方こええ!」が入るのも、前提がわかっていたほうが面白い。

悪ガキのおかげで消えてしまった馬を探す馬方の心配が、客にうつってくる。
そりゃそうだ、日暮れまでにもうひとつ山超えないとならないし、馬も疲れている。
なのに話の通じない人ばかり。このモヤモヤがもうたまらない。
下手すると本当に客がイラつきかねないので、演者のウデが強く求められる。
春風亭朝枝さんが教わってやったらニンに合う気がする。

たまらんマクラからのたまらん一席でした。
いろいろ差別的な表現があっても、ただの落語ですからねと。
まったくそうで、構造としては「コミュニケーションギャップ」の典型的な噺に過ぎない。だからといって、気軽にやれるかというと。

圓太郎師、事前に(仲入り前に)一席やろうか二席やろうかという話をしていたが、二席やることにしたようだ。そのまま次の噺のマクラへ。

乾いた洗濯ものをたたむ圓太郎師。
奥さんの下着の、一番大事な部分がずいぶん擦り切れている。
これは買い替えたほうがいいと考えた師匠。
大事な部分をハサミで丸くくり抜いてみた。
奥さん、子供とお風呂入っていたが、声がする。
あら、こんなに穴が空いちゃって。
そんな穴、勝手に空くわけない。いたずらなんだとわからないのか。
奥さんの下着を買いに出かける師匠。
下着にも2種類あって、はて頼まれたのは脇の細いものであったか、太いものであったか。
女性の下着売場をウロウロするのも嫌らしいのでいったん撤収するが、なんと売場に6万円入ったカバンを置き忘れてしまった。
だが、奥さんが6万円くれた。

なんだこのいい話っぽいの。
洗濯はともかく、なんで師匠が奥さんの下着を買いに出かけているのか、さも当然のように語っているのが、意味不明だが面白くて。
これは髪結いの亭主のフリであった。
先週は、同じく奥さんの話だがまったく違うフリから同じ厩火事に入ったのだった。
圓太郎師には、登頂ルートがいくつもあるのである。
こんな噺家は、さすがに他にいない。
そしてこの面白さは、寄席では残念ながらわからない。

聴いたばかりの厩火事だが、さして残念でもない。
聴いていてずっと楽しい。音楽のような楽しさとはやや違い、緩いホラ噺のような。
厩火事という、笑いどころの本来少ない噺を、無理にギャグを積み増しているのかと思うと、ちゃんとお咲さんの心情が描かれている。
「ああ、お咲さんは現実に向き合えないからつまらないギャグばかり言うんだな」と感じる厩火事も見る。
それがいけないと言うんじゃないのだが、圓太郎師のものは似ていて違う。
ギャグはギャグ。そして噺の芯はギャグに影響されず、しっかり骨太に走っている。

そして、微妙に前週と異なるくだりもいくつか入っているのである。
予定調和のない、高座で作り上げる芸。
やはり亭主が比較的いい奴。計算づくでなく、ちゃんとかみさんを心配している。

5時開演で、すでに6時10分ぐらいだが、ここで仲入り休憩。
6時半までの会なんだけども、時間はわりとどうにでもなる。
続けてもいいんですが、もう足がしびれまして。
どうぞお気遣いなくと先に休憩を宣言しておいて、しびれた脚をほぐしながら高座を降りる師匠。
この間も客とずっとコミュニケーションを取りつつ。

ちなみに今回、連続3年目にして初めて出囃子「圓太郎節」が流れた。
今回はちゃんとCDご持参だったようである。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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