新宿末広亭5(下・笑福亭羽光「おもんない菌」)

続きものの3日目なのに更新遅れました。
自分のブログ読み始めたら、なんだかやめられなくなっちゃって。
お前アホだろと思われるだろうが、本当なんだから仕方ない。このブログは一番の読者が私なのだ。
読者の私に対し、筆者は実にいい仕事をしてくれる。

末広亭の夜席仲入り後は2時間弱。
これで1,500円はなかなかお得な気がする。もちろん、昼席からずっといればもっと得だけど。
トリは笑福亭羽光師。
折から大阪で「上方落語をきく会」があったところ。
radikoで上方落語を聴く習慣のない人には、2年前に羽光師が出たときの熱狂はピンと来るまいが。
ある種NHK新人落語大賞優勝をしのぐものがあったかもしれない。

この席では古典と新作を交互に出させてもらってますとのこと。
そうなんだ。知らないで来た。
羽光師の古典落語は、メディアでも一切聴いたことがなく、スタイルも想像もつかない。どんなのだろう。

今日は新作の番。
アルベール・カミュの「ペスト」にヒントを得て作った噺です。
この本、コロナ禍で売れたそうです。
世の中すっかり元に戻りましたけど、あの頃はいろいろありました。未知のウイルスへの恐怖は、「ペスト」でも描写されています。
自粛警察が現れたり。寄席も世間の目のカタキにされましたし。
家族に反対されて寄席に来れなくなったお年寄りがいたりしまして。

などと仰々しい前置きから始まる一席は、ただのバカ新作でした。
円丈が元気だったら、いかにも作ってそうなイメージ。
「私小説落語」でも、エロ落語でもない。
おなじみ中村好夫も登場しないが、噺家笑福亭羽光はちょっと出てくる。

ハネた直後は、正直なんだか物足りなかった。
後半の冒頭、2席の盛り上がりが尻すぼみになったような。トリだけで、ブログ1日分のネタになるかなと思った。
私の中では、足りない原因はわかっている。羽光師のトリ演目にしては、ペーソスが不足している。
バカ落語から、売れないお笑い芸人の哀愁がもうちょっと漂ってくれば大傑作。
「きゃいのう」から大部屋役者の悲哀が漂うごとく。
とは言うものの、聴いてから2日経つと、噺が熟成してきた。なかなか楽しかった感想になってきた。
ただ、ネタバレを最大限避けて紹介するのがやや難しいが。

2020年、お笑い芸人の間に「おもんない菌」が蔓延する。
これに感染すると、みな下手になってしまう。テンポも悪くなり、アドリブも出てこない。技術も低下する。
しかし松竹芸能だけは無傷で、露出を増やしている。
実はおもんない菌は、松竹芸能がひそかに研究室で作り上げたのだった。最もつまらない落語家、ぽんぽこ亭ひょうきん丸の成分を培養したもので、もともとはこれをスプレーにして、他事務所の芸人に吹きかけたことから蔓延したのだ。
松竹芸能はこれをワクチンにして、事務所の芸人に打っている。おかげで松竹がお笑い界を席巻。
ぽんぽこ亭ひょうきん丸という芸名は、春風亭昇々師の「最終試験」に出てきていた。
羽光師は師匠と同様、現在は松竹芸能所属だから、悪役を松竹にせざるを得ないようだ。
本当は吉本にしたいだろう。吉本なら非常にハマる。

おもんない菌が蔓延し、寄席はガラガラ。外ではおもんない菌を広めるな、寄席を閉鎖せよという妨害も起きていて、芸人も寄席まで来るのが大変。
高座の様子がおかしい笑福亭羽光。これもおもんない菌に感染したようだ。
しかし羽光が楽屋を去ったあと、真相が明かされる。あの人本当は感染してないんです。
NHK新人落語大賞を獲って、一時は特需があったのですが、翌年桂二葉が出てあっという間になくなってしまいました。
それに耐えられなくて、感染したフリをしてるだけなんです。

事務所のお笑い芸人が全滅した芸能事務所、逆に面白い菌でワクチンを作ったら、おもんない菌に対抗できるのではないだろうか。
そう考え、最も面白い噺家からワクチンを作ることにする。
こんなとこだけネタバレを避けるのもなんだが、伏せておきましょうか。
ちなみにサゲに関係する、2番目に面白い芸人は、昔昔亭A太郎だった。これは恐らく、この日限りのサゲだと思うのだ。

「NHKを獲ったのに」あたりにもっとペーソスが漂うと最高なのだが、現にトリを取ってる以上それほど説得力はないのは仕方ない。
しかし羽光師、「メタ」「エロ」あたりでもって個性をくくられかねないが、他の要素もまだまだあるようだ。
古典も聴いてみたいものだ。

さて11日からは中席。池袋に、柳家花いち師のトリを聴きにいかねば。

(翌日追記)

変換を誤り「ワクチンを売っている」と書いていました。松竹芸能がよりアコギな会社になってしまいました。

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作成者: でっち定吉

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