巣鴨スタジオフォー「四の日寄席」(中・桂やまと「夢の酒」)

隅田川馬石師は、久々だ。
なんと、このブログ始めた2016年以降、馬石師の高座を聴いた記録がない。
名前を見つけると気になる人なのだが、巡り合わせで開いてしまった。
その馬石師、お見かけしないうちにふっくらした外見に変わっている。
それにつれ、なんだか芸風も少々変わった気がする。
もうちょっとかっちりした芸だったと思うが、ふわふわした感じに変わっているのが面白い。
かっちりした馬石師もよかったが、緩くなってさらにいい。師匠、雲助みたいな味もうかがえる。

この日は馬石師、浅草夜席で、兄弟子白酒師の代バネだそうで。
お客に、よかったらぜひそちらにもいらしてくださいと。しかし続けて、まあ、誰も来ないでしょうけどね。社交辞令です。
こんなことを言って、誰も敵に回さないところが師の人柄。

緩く楽しい、鰻屋へ。大川の水を飲まされたエピソードはなし。
鰻屋の主人にとっては、職人が帰ってこなくて自らさばかなくてはならないという状況、実は悲劇でもあるのだ。
そして、主人を焚きつける連中も、別に主人をひどい目に遭わせたいわけじゃない。タダで酒が飲めれば嬉しいなという程度の了見だ。
鰻と一緒に主人が町内を巡り歩く楽しい世界。
現実に引き戻されるシーンはみじんもない。

なかなか捕まらないうなぎ「与三郎」のあたり、渾身の力を入れたりせずさらっとやるので非常に面白い。

桂やまと「夢の酒」

桂やまと師は、確か初めて聴く。落語協会の真打も無数にいるのだから仕方ない。
立花家橘之助師匠の襲名披露で、鳴り物を担当したというのは知っているが。
才賀師の弟子だから、亭号は桂でも古今亭だ。

この会の、仲入りの際に提供するコーヒーを提供する、巣鴨駅前のコーヒー豆ショップ、「ハニービーンズ」の話。
やまと師もよく立ち寄るそうなので、地元らしい。

やまと師、よく着物を忘れ、移動中の電車で師匠・才賀師に叱られる夢を見るそうで。
いっぽうで、すばらしい夢を見たことがある。
前座時代にぎりぎり間に合っている先代小さんはとても風格と威厳のある人だった。
その小さんが楽屋にいるやまと師に近づいてくる。いったい何がと思って恐れおののいていたら小さんが一言「おめえ、うまくなったな」。

そういえば、私もたまに見る夢がある。
エレベーターに乗っていると、なぜかこれが乗り物として、横に斜めに、長距離を動き出すという。
「チャーリーとチョコレート工場」に出てくる、縦横無尽に動くエレベーターが近い。
人類共通の夢というものがあるのだと思う。

マクラから、夢の噺なのはわかっているが、「天狗裁き」ではなく「夢の酒」。
いや、すばらしい一席だった。
私はこの噺が大好き。天狗裁きよりよく聴く気がするのはなぜだろう。
夢の酒、元来そんなにメジャーな噺でもないと思うが、噺家さんもこの噺の味わいに惹かれるのだと思う。
柳家の人が掛ける印象の噺で、古今亭では初めて。
そしてやまと師、今年も鈴本でトリ取っていてるだけあり、その実力は伊達じゃない。

嫁のお花はとてもかわいらしい。かわいらしいがゆえに、大旦那に平気で昼間から寝ろと無茶な要求ができる。
大旦那は風格があるが、酒飲みなので、風格と矛盾せず、ちょっと抜けている。
そして夢の中の登場人物であるご新造さんは、とても色っぽい。若旦那の寝床に入ってくるシーンがたまらない。
やはり鳴り物の修業など、こうした部分において必ず高座の役に立つのですな。

ここで仲入り。
やまと師が宣伝していた、ハニービーンズコーヒー、200円払っていただいた。
なかなか旨い。私はコーヒーにはうるさいほうである。

続きます。

作成者: でっち定吉

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