巣鴨スタジオフォー「四の日寄席」(下・初音家左橋「豊志賀の死」)

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古今亭駒治「初めての自転車」

古今亭駒治師は、真打昇進した昨年度、私が高座を聴いた回数のトップなのである。
当然のように昇進披露も行った。なのに今年は初めて。
飽きたわけでもなんでもない。実際、来月は小ゑん師との鉄道落語二人会に行く。
毎月やっている「ささはた寄席」にも、今月行くかもしれない。
駒治師、新真打の中でも人気だから、同期で寄席のトリを最初に取るのではないかと思っていた。
だが先月の池袋下席で、柳家勧之助師に先を越された。
勧之助師も好きで、その芝居に行こうと思っていたぐらいなので、残念なわけじゃないが。

豊富なマクラを持つ駒治師だが、早めの本編。この日唯一、長講でない軽い噺。
出番的にはこれでいい。
You Tubeで聴いたことのある「初めての自転車」。
高座を観ると、子供が自転車で倒れた後の、カラカラカラカラ・・・の所作がとても楽しい。
誰にでも蘇る、自転車の練習の記憶。聴き手の琴線に触れる作品を次々生み出す駒治師の感性が好きだ。
最近の幼児は、みんなストライダーに乗っているから、自転車にも労せず乗ってしまうけど。

駒治師のくだらない新作を、年配の客が喜んで聴いているのを見るのは楽しい。
「くだらない」はもちろん褒めているのです。
それにしても駒治師、「落語」が上手いなあと思う。演技も極めて上手い(ちょっと噛むけど)。
カミシモを切って登場人物のセリフをチェンジする、そのタイミングに圧倒的な技術を感じる。
演出も素晴らしい。ツッコミを受けず、しばしばボケっぱなしのセリフが多い。
ふざけている世界を客が理解しながら聴くので、ツッコミがないほうがむしろ自然なのだ。
古典、新作という区分の前に、このようなスキルを持っている人はそうそういない。
古典やっても間違いなく上手いと思うが、あくまでも新作に特化しているのがこの人のこだわりらしい。

初音家左橋「豊志賀の死」

トリの左橋師は、浅草8月中席の住吉踊りの宣伝から。
踊りはいつまで経っても上手くならないが、その分、橘之助師匠に手を取って教えてもらえる。なまじ上手くなると、そんなことはしてくれない。だからいいんです。
「三遊亭橘之助」って言ってた。違うよ。
そして、橘之助の旧名を「あす歌」だって。古いよ。
わりとテキトーな左橋師だが、テキトーなのも味のうち。だが、怪談噺は適当ではない。

最近はあまり怪談噺は掛からないですねと断って、なんと豊志賀の死。
いやあ、大ネタ中の大ネタ。三遊亭圓朝作、真景累ヶ淵。
私も、圓生の速記でしか読んだことないのだ。初めて聴く。

女の情念を描く、怖い怖い噺である。
できものができて恐ろしい顔になってしまった師匠の世話を焼くのがつらくなってきた、若い燕の新吉。
師匠がありもしない悋気を焼くので、その相手のお久と下総に逃げてしまおうかと思案する。

師匠の世話になったことを、新吉も忘れようというのではない。人の情けを踏みにじろうなんて気はない。
だが、あまりにもひどい師匠の悋気。根拠がないのだから新吉も嫌気がさす。
にもかかわらず、根拠ない悋気の相手である女と、どうにかなってもいいやと思ってしまう。師匠が、ゼロから憎しみの原因を生み出し、本当にしてしまうのだから恐ろしい。
人間心理を極限まで描き切った圓朝はすごい。
だが演者だってもちろんすごい。
左橋師、このような噺を徹底して掘り下げて描く人なのだな。
そうそう聴けない、怖い大作をたっぷり聴けて、大満足です。
意外と地の部分で笑いも入れていた。
笑いが、サービスで入れている不自然な感じではなくて、怖い噺のスパイスとして効いている。

仲入り前に出た師匠はもういなかったが、着替えた駒治師と、一席終えたばかりの左橋師がお見送り。
帰りはぶらぶら巣鴨駅まで歩いてみた。地蔵通りも賑やかで、私この街結構好きかも知れない。
年寄りの街とされるが、その分パン屋が多かったりして、使い勝手がよく住みやすそうだ。
先日、山手線最後の駅、駒込に下りたったのだが、巣鴨もよく考えたら相当ご無沙汰だ。小学生のときにとげぬき地蔵に来た覚えがあるが。
またスタジオフォー、落語聴きにきますよ。寄席っぽいところもいい。
四の日寄席の回数券、5枚で8千円も貧乏落語ファンには気になる。
大塚駅のほうからから歩いてみるのも楽しそうだ。

作成者: でっち定吉

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