イオンシネマ車椅子事件から「拒絶」を考える

イオンシネマ、車いすユーザーへの不適切対応でおわび文「従業員の教育再徹底と再発防止策を講じ…設備の改善を進める」

たまには社会派で。
とはいえ、落語べったりの内容であります。

既報の通り、イオンシネマの対応を、車椅子インフルエンサーが吊るしあげようとして、世間から逆襲を受けたという話。
吊るしあげた側に、バッシングの嵐。
伊是名夏子の「来宮の変」とか、既視感漂う事件だ。

ニュースの全貌を知らない状態でも、なんらかの感想は持つ。
私が最初に感じたのは、告発へのネガティブ視点ではない。むしろ逆で、「拒絶」に関する痛みを共有した気がしたのだ。
イオンシネマについても、業務が大変かどうか、負担の程度とは別次元の問題で、「客を拒絶」したこと自体がまずかったのではないかと。

そして真っ先に、昔昔亭A太郎師のことを連想した。
A太郎と拒絶とは?
もうやっていないのかもしれないが、一時期この人、アホみたいに高座で撮影会をしていた。後輩の披露目の席ですら。
ぼくの雄姿をぜひカメラに収めてくださいと。
実に気持ち悪い、つまらない儀式だが、別にそれ自体を批判したことはない。
ただ「すぐにスマホを立ち上げられる人たちは、もともと電源切ってないよな」とは思っていた。
本気で腹を立てたのは、いちいち切ったスマホの電源を立ち上げてまで撮影しようとしない私などに対し、高座のA太郎が「撮らない人は本当に撮らないですね。撮るフリなり、撮ってもあとで消せばいいのに」といちいち言い放っていたこと。
高座の最中はスマホ電源を切れというマナーを他の客に強制する気はない。ただ、粗忽であることに対する自覚のある私は、うっかり鳴らして高座を台無しにしたくないので必ず切る。
A太郎は、本来あるべきマナーを完遂している、電源を入れたくない客がいるという想像力すら持っていない。

それはそうとこのときに演者からの、客に対する「拒絶」を感じたわけである。
まともな客が拒絶される、実に不思議な話。
A太郎の高座なんて二度と聴かないと思っていたが、今月聴いた。
「撮影禁止」の張り紙が出ている末広亭だからやらないだけかも知らないが、当ブログの不快感が伝わった結果やめたのならこれ幸い。

この「拒絶」体験を通じて、イオンシネマに拒絶されたインフルエンサーに共感したのだった。
受けた理不尽さの度合いは、議論の余地はあるにせよ。

もうひとつ「拒絶」を感じた件がある。
ただしこちらは、いったん演者の側に共感したのだが。
神田伯山先生が、高座の最中スマホを鳴らした客を、高座の上から非難したところ、終演後のアンケートで「そこまで怒らなくても」と指摘され、嘆いたという。
私に言わせれば、成金の仲間に寝首をかく奴がいる。
A太郎の撮影会の際、すぐ写真を撮れるスマホ電源入れっぱなしの人間と、講談の最中に鳴らす人とは一緒である。
スマホを鳴らす客は高座の破壊者。絶対に悪い。

神田伯山スマホ鳴らされ被害 しかし成金には加害者もいる

だがイオンシネマ事件を機に、これも少々別の角度から考え直した。
鳴らした客の立場からすると、これも「拒絶」であることには変わらないなと思ったのだ。
たとえ鳴らした客自身がどうでもよいとしても、鳴らした客に同調、同情する罪のない客もいる。その人たちの、演者から冷たい目で向けられた拒絶と、それに対する悲しいテンション低下もわかるなと。
大事な高座で携帯が鳴り響いた際における演者の作法は、三遊亭遊雀師が限界だろう。
師もしっかり鳴らした客を非難するのだが、同時に必ず爆笑ギャグとして成立させている。神技だ。
ギャグにされれば、鳴らしたほうもまだ救われる。
いや、鳴らすヤツなんて客じゃないと言われれば、それもわかるけれど。

とにかくも、演者が客を拒絶するなんてよほどのことだなと。
A太郎は「シャレ不発」だし、伯山は「マジ怒り」だから拒絶の程度は違うにせよ。

あと「拒絶」の中身は相当違うが、成金でもうひとり。
たびたび書いてる瀧川鯉八、「大谷に骨折して欲しい」。
これも、クソつまらないギャグを通し、演者の拒絶を受けた経験。
ちょうど昨日、MLB開幕戦だったが。
鯉八もその後一度は聴いたが、ヒーローをただ貶めるためのネタが、私に与えた影響は果てしなかった。
あのギャグ、いまだに狙いがわからん。
演者の、人間としての醜い部分が、自分の客の前での甘えで不意に突き出てしまったものと推測する。

あと、宴児家喧坊こと上運天英蔵。
策伝大賞の模様が、NHKで全国放送された。
この、でっち定吉を誹謗した野郎が取材を受けていて、また嫌な気分になりました。
あの様子を見ていて、いきなり人を誹謗してきた根本が理解できた気がする。
自分に力があると考えている傲慢な男。こちらを弱者と侮り、実に気軽にその態度が噴き出たのだろう。

さて、もっぱら成金メンバーから受けた「拒絶」体験を介し、今回の事件を見ると、意外なぐらいバッシングを受けている側に気持ちが近づく。
告発者がかなりイタい実績を残した人であり(例:新幹線多目的トイレを生配信のために長時間占領)、今回の事件単体でも、障害者の側からむしろ批判されていることを念頭に置いた上で。
人間性の批判、非難は、その都度やるべき話であるからして。
「こんなイタいヤツだから、今回の事件も同情には値しない」と攻めてくるのは、さすがに無理筋だろう。
それは納得したいだけに過ぎない。
伊是名夏子は批判した私だが、きっかけを見るに、同種の事件には思えない。
少なくとも、映画に感動したその直後に心ない発言を(被害者の主観でいい)された、その「拒絶」の感覚には共感するものであります。
そして、バッシング側にとっては残念なことに、今回の事件は今後のバリアフリーを考えるうえで、有益だったようだ。

(2014/3/22追記)

新幹線の配信はトイレではなく、ルールに則って多目的室を使ったものでなんら問題ないそうで。
これ聞くと、かなり印象変わるのでは。
別に当人叩いていない当ブログすら、冤罪に加担することがあるのだった。
お詫びして訂正します。
間違ったソースで火を付けられないようにしないと。

作成者: でっち定吉

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