花いちの真観笑地帯(上・桂枝平「死ぬなら今」)

昼は梶原いろは亭、そして夜はなかの芸能小劇場で、「花いちの真観笑地帯」。
いろは亭の「下」を未掲載だが、先に夜のほうを。

日本橋亭の一時クローズに伴い、中野に引っ越している会。
夜席に行きづらい私は、初めて参加。
たまたま今回、予約で1,300円とサービス価格だ。昔作った新作をやってみる企画のためらしい。

いろは亭のあと、一昨日の小はぜさんの記事を仕上げてアップし、その後いったんうちに帰るつもりだった。
だがここ数日家で仕事も進んだことだし、最近では珍しく昼間から外で一杯やってしまう。
いい気分で乗り込んだ、開場直後のなかの芸能劇場はスカスカ。
だが30分爆睡し、開演直前に目を覚ますと、かなり埋まっている。
30人以上いるようす。
相変わらず女性が多い。
私の好む噺家さんは、女性ウケする人が多い気がする。
というか、オレ自身がおばさんなのかもしれない。
最近、自分のおじさん化よりもおばさん化を自覚している。

珍しく、月に三度も柳家花いち師を聴く。
トリの芝居のあとですぐ予約したのだ。

死ぬなら今 枝平
大関口上 花いち
三年予約のお店 花いち
(仲入り)
夜のお出掛け 花いち
人生お菓子 花いち

前座の出囃子が鳴って、前座さんが登場。いるんだ。
やたら愛想のいいこの人、誰だっけ?
「まずは桂枝平でお付き合い願います」
あ、枝平さんだ。
初めて聴いた高座をオチケンだと酷評してしまった。普通は名前出さないのだけど。
だがその後、鶴川の正蔵・喬太郎の会で聴き、見事な成長に感心した。
私に、さまざまなことを考えさせた前座さん。

3度目の邂逅だが、すでに第三形態に進化していた。
まだ前座なのに、完全に客席をコントロールしている。

桂枝平と申します。桂文生の弟子です。
文生はもう84で、そんなに仕事がないので、私にも来ません。ここ、笑うとこじゃないですよ。

この、なんでもない「笑うとこじゃないですよ」に驚嘆。
二ツ目さんでも、客席にツッコミ入れていくと自爆したりする。実にナチュラルに入れていった。
客席と高座、関係がフラットで始まったのに、高座の芸人のほうが上から来ると、戸惑うこともあるわけだ。
客席が、芸人が上から来たなと思っても許してしまえるかどうかがカギなのだ。
名前出して悪いけども、林家たけ平師なんて真打で人気もあるが、上から来るのを私は許容できない。

仕事がないから、故郷の父が会を主催してくれる。
主催者挨拶で感激のあまり泣き出す父。それは葬式のときだよ。
初めて見た所作。「頬を両手で覆う」のが頻出していた。
「Oh!」という感想のときはすべてこれで間に合わせる。マクラ、本編に大活躍である。

今日、花いち師匠はずいぶん緊張してました。
あー、始まっちゃう(頬を両手で覆う)ですって。

今日は長くやってもいいと言ってもらえましたので、変わった話をします。
死ぬなら今、という。
この噺だけ、タイトルを先に言うことになっています。
以前私の会でネタ出ししたんですが、会場に着いたら演題が「犬ならチワワ」になってました。

地噺か。前座の分際で。
しかし、客席を完全に支配しているので全然問題なし。

あかにし屋ケチ兵衛が、死に際に息子を呼んで、地獄の沙汰も金次第、棺に100両入れてくれと頼む。
しかし親族に反対され、芝居で使う贋金を入れる。
カネのおかげで閻魔のお裁きを最速で受け、そして極楽へ(天国って言ってたが)。
贋金使いはみな地獄警察に逮捕され、役人がいなくなったので死ぬなら今。

黄泉の国は使者でにぎわっている。
寄席もやっている。志ん朝、談志がまだ前座をしていたりして。
近日来援、すずすずしゃうまかぜ。

ふざけた噺を、オーバーアクションと、切れのいいツッコミで難なく語っていく。
すごい前座。初めて聴いた高座で、ウケを狙ってスベっていたのと同じ人には思えない。

二ツ目になればブレイク間違いないだろう。
ただちょっと気になったのは、この日のネタを見る限り目立っているのはお笑い芸人的スキルのほう。
もちろん、それはそれですごいけど。
私がすごい前座の高座を見て覚える感覚とは、まるで別もの。

噺家としてとらえたときは、橘家圓蔵、そして春風亭小朝の方法論だ。
死ぬまで突っ走った圓蔵ならいいのだけど、小朝師というと、こんなやり方で大ブレイクしたあと、やがて砕け散った。
そういえば圓蔵も生前のギャグで、「お前はそんなこと言ってるから小朝に抜かれるんだよ」なんて自虐を発していたが。

そのあたりが不安を誘う。
ブレイクするところまではいいとして、世にも珍しい一発屋噺家になる可能性があるのではなかろうかと。
現在でもすごいところに、落語のスキルが丸々のっかれば無敵という感もある。
しかし、面白過ぎて、どこかしら不安も覚えるのであった。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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