梶原いろは亭5(下・春風亭弁橋「千早ふる」とトーク)

いったん昼の会(小はぜ・弁橋)に戻りこちらをフィニッシュします。

一昨日、帰ってきてからYou Tubeで先代小さん(小はぜさんの大々師匠)の提灯屋を聴いた。
そうしたら、小はぜさんのものはだいたいこれと同じだった。
小はぜさんは洋食屋と支那料理を抜き、隠居の「丸に柏」強調を付け加えている程度。
なのに比較すると小さんのもの、しっかり軽い。本当に。
だから、演出そのものの問題ではないのだ。
現状、軽さに欠けているのがマイナスに働いているのは事実。もちろん上手いひとだけど。

今度は春風亭弁橋さん。
「座敷わらしです」。
小はぜさんは弁橋さんを「陽気な座敷わらし」と評していたのだ。

いろいろ褒めていただきましたけど、最後にクサしていきましたね。
今日晴れたのはぼくのおかげじゃありません。ぼく、雨男なんです。
アニさんの力でしょう。
アニさんにやりやすいと言っていただきましたけど、アニさんのほうが、いつも気軽に話しかけてくれるんです。
先輩によっては楽屋でムスッとしてる人もいますから。

今日はアニさん自ら「先に出るから」と言ってくださいました。
気を遣ってくださるんですけど、本当はあとの出番嫌なんです。
アニさんのほうが上手いし面白いに決まってるでしょ。
やりにくいですけど後輩なので逆らいません。

くだらない小噺を3つ4つ話していたが、本当にくだらない。
でも、スベリウケという様子でもない。
ドヤ顔で語って、特にウケてるわけでもないが変な空気にもしない。
浮ついたキャラが確立してるので、怖いものなし。

知ったかぶりを振って、千早ふる。
弁橋さんは過去2回、それも4年前にまとめて聴いただけなのだが、その一席が千早ふる。
当時昇進したてだったが、完全なる小遊三型だった。
同じ山梨出身というのもあるのだろう。
当時の印象はかなり強い。

う~ん。
今回も非常に面白かったのだけども。
弁橋さんはかなりユニークな個性の持ち主なのにもかかわらず、千早ふるからは小遊三師の偉大さがビンビン響いてきて。

弁橋さんも、工夫してないわけじゃない。
やたらと、歌のわけを訊きにきた吉さんを帰したがるとか。
この乞食は誰でしょうというクイズを、「ファイナルアンサー?」で尋ねるとか。
あと、「畜生のあさましさ」と「as soon as」も抜いていた。
ながそれ以外はおおむね、小遊三師のものだ。
相変わらずマラリヤも入っていたし、義太夫も。
そして後半、隠居の作ったフィクションであることがもうバレてるとか。

芸協の若手から、小遊三師の偉大さを間接的に感じることは多々あるのだが、今回はほぼそれだけであった。
なまじ知らなきゃ、全部本人のものとして感激するのに。

袖から小はぜさんを呼ぶ。もう着替えている。
トークコーナーはないのかなと思ったが、終演後にあるのだ。
なんだか小はぜさん、ぶつぶつ言っている。いやあ、トークやらなくてもいいんじゃないのと。
やりましょうよ、そう決めたでしょと弁橋さん。
小はぜさんは、高座の印象ではきっちりしてるのだが結構テキトーな人なんだというのがわかった。

小はぜさんの高座で、弁橋さんをべた褒めしたことについて。
いや、あれはヨイショじゃなくて、思ってることを言ったんだよと小はぜさん。
ぼくはあのときの、子供の弁橋さんが大好きなんだよ。
19でしたけど、子供じゃないですよ。子供の頃知らないでしょ。
今ではこんなオールバックになっちゃって。
これ、ちょっと背が高く見えるかなと言うのがありまして。156cmしかないもんですから。
え、うそ、オレより10cm以上低いの? オレ169だけど。でも、そんなに高く見せたい?
やっぱりモテるじゃないですか。女の子は結局、背の高い男が好きですよね。実際彼女もいませんし。
ぼくは169あってよかったと思ったことなんてないよ。独身だし。

そして弁橋さん、故郷の同級生に女の子を集めてもらってコンパを開いた話に。
コンパなんてよくやるの? と小はぜさん。
めったにないですけどね。アニさんは?
行ったことない。

あと、弁橋さんが袴をつけてることについて。
これは、弁橋さんのアクションが多く、裾が乱れるから師匠に勧められたんだそうだ。
アクションしなきゃいいんじゃないと小はぜさん。
そうですね、最近始めたばっかりなんですけど袴は畳むの面倒なんですよ。

なんの話だったか、小はぜさんが自分の悪癖を語る。
全然悪気ないんだけども、人をズバッと刺しちゃうことがあるんだと。
本質を忖度せずズバッと語ってしまうということらしい。
悪意はまるでないらしいが弁橋さんに、芸人やめて公務員になったらと勧める小はぜさん。
アニさんは(29で入門したので)すでに転身した先が噺家なんですねと弁橋さん。

トークが盛り上がってきたところで、アニさんそろそろ時間ですよと弁橋さん。
年がずっと下のこの人のほうが、しっかりはしているようだ。

トークでは出なかった話だが、弁橋さんは落語好きの少年だったという。
いっぽう、小はぜさんの人となりがちょっとわかった。
半生において、面白いと評価されたこともなかったんじゃないだろうか。
でも、観察眼は備えている。自分を観察するスキルも。
そして、古典落語を欲なく語る節度が身に着いている。そうして修業しているうちに、高座に面白みが出てくるのだろう。
お笑い芸人と全く異なる、噺家らしい育ち方をしてきた人なんだろうなとなんだか腑に落ち、感心した。

噺の演出に不満がなくはなかった2席だが、それでも面白かった。
こうした不思議な楽しみが漂う梶原いろは亭も面白い。

明日は、花いちの真観笑地帯の《中》です。

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作成者: でっち定吉

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