梶原いろは亭5(上・柳家小はぜ「提灯屋」)

連日、咳とクシャミのしすぎで肋骨が痛い。
それでも回復したので出かけます。
昼と夜、別の回にそれぞれ予約を入れてある。
まず昼は梶原いろは亭。柳家小はぜ、春風亭弁橋という、いろは亭ならではの珍しい組み合わせ。

弁橋さんはなんと4年振り。
神田連雀亭に出てるはずなんだけど。
今日はお客が妙に多く、つ離れしている。

幕が開くと小はぜさんのメクリ。
晴れてよかったですね。私今浅草演芸ホールに出してもらってるんですけど、毎日雨続きで。
トリは権太楼師匠です。
広い意味では五代目小さん一門ですけど、でも柳家でもかなり違うので、毎日挨拶させてもらってますから居残ってるんですけども、雨が本当にやまなくて。
今日晴れたのは、弁橋さんのおかげなんですよ。

いつもマクラをそれっぽく書かせてもらってるのだが、それらしく再現しやすい人と、そうでない人とがいる。
小はぜさんは再現しづらいほうだ。
そもそも、この人のマクラを聴く機会がそうそうない。
鶴川でやってる勉強会なんかでは普通に話しているのだろうか。でも私にはとても新鮮。

マクラを稽古してるんじゃないかと思う人のものは、リズムがいいので再現しやすい。
いっぽう小はぜさんは、出たとこ勝負みたい。
話がなかなか前へ進んでいかない。
小三治イズム? そうではなくて、たぶん本当に、日常の話をするのがそんなに上手くないのだ。
とはいえ退屈とか、じれったいとか、そういうことでない。
マクラで語りたい肝をひとつは握っているから、そこを中心に膨らんできて、味が出る。そういうことのようだ。
そして、マクラから鼻濁音がすごい。

弁橋さんは協会も違うので、数えるほどしか会っていない。
でも、寄席に置いてあるチラシを見て、早いうちからなんだかいい人だなと思っていた。
小はぜさんは人見知りの傾向があり、初対面からいい人だと思うことは少ない。だが、弁橋さんだけは初対面からいい人だと思った。
今日会っても、懐への入り方が実に上手い人。といって、やたら近づいてくるわけでなく、距離感がとてもいい。
昔の彼のチラシのデザインが、おそばを食べる所作を写したもの。ニカっと笑っていて。
これが、本当に少年、というか子供みたいで。
でも今日会った弁橋さんは、髪をオールバックにしていてなんだか大人になってしまった。残念だ。
鈴木福くんが、ゴルフの番組に出てるようなものだ。

ここ梶原いろは亭は、乗り換えがあったりして来づらいかもしれない。
町田在住の小はぜさんは、駒込駅から歩いてくる。20分程度。
今日は晴れてるので、とても気分がいい。
住宅街を通り抜けてくるが、ごみごみした住宅街ではなく、適度に空間があって。
そしてお庭で花が咲き乱れている。実にいい感じだ。

ここに来たら嬉しかったのが、表に座布団が干してあったこと。
盗まれるという心配もせず。まあ、誰も盗らないだろうけど。
小はぜさんが住んでる町田の外れと感覚が似ている。あのあたりでは住民は鍵を掛けてない。

マクラを15分以上話していたから驚いた。
とりとめもない話だけど。

本編は、広告を振って提灯屋。
ちゃんとチラシがつながっている。
好きな噺だが、そんなに聴く機会はない。
もともとは柳家の噺かもしれないが、柳家の人で聴くのは初めて。

マクラの調子のまま、小はぜさんは決して急がず、丁寧に進める。
その魅力たっぷりの一方で、私がこの噺に抱いている軽さは感じない。丁寧だからな。

ちょっと軽さを損なってるなと感じた箇所。もちろん、いい悪いではなく好みの問題。

  • 丸に柏の振りを、客のために強調している
  • 米屋の隠居に、「あっしだけ読めると付き合いがよくねえんで」と語る男に、仲間がちゃんとツッコんで、そして男がまた返している
  • 隠居が「広告というものは」とひとくさり語る際の、「次、回しましょか」というツッコミの後が長い
  • 最初に提灯屋に向かう男に隠居が、「お前さんところは丸に柏じゃないか」と振っている
  • 判じ紋の説明が細かい(特にくくり猿)

すべてさらっと流すところに私など粋を感じるけども。
「丸に柏」なんて、もともと不自然なくだりを強調し、「ここに仕込みがありますよ」という感じで語っている。
なのに再度、隠居からダメ押しが入る。
ちょっとやりすぎでは。

提灯屋の扱うテーマは家紋である。
これは歴史マニアとか、よほど興味のある人でもないと確かにわからない。
剣かたばみ、竜胆崩し、ねじ梅、くくり猿と言われても。
でも噺が頭に入っていると、とても楽しいのだ。
フレーズ落語として、覚えたいなと思う。

というわけで、過去に聴いた小はぜさんの高座からはなにもおかしくないのだが、私のほうが勝手に残念に思った。
45分の長講。
うーん、持ち味は持ち味としていいのだが、でもやっぱり今日の噺は重々しいなという気がする。
今回、小はぜさんのチラシもいろいろもらったので、スケジュールに入れておいた。まだまだ聴くけども。

ちなみに、メタ落語が平気で語れる人ならこんなのどうか。

「鶏肉じゃねえか。上方ではカシワなんて言うがね」
「すっぽんもいいね。上方ではマルなんて言うがね」
「お前らよってたかってなんだ上方って。藪から棒だな」
「たぶん、ここが仕込みになってるんだろうよ」
「バラすな」

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。