両国寄席7 その2(三遊亭王楽「新聞記事」)

三遊亭楽天「平林」

二ツ目が続く。
無筆のマクラ「いいんだよ、兄貴も読めねえから」でドッと湧く、そういう客。
楽天さんは何度か聴いているのだが、正直今まで、いいなと思ったことがない。
だが、この日の力が抜けている感じはとてもよかった。小僧・定吉がピタッとハマる。
今回だけたまたまよかったというイメージではない。今後もずっといい感じで聴けそうだ。
当代円楽一門はいい噺家が多い。あの師匠、弟子をきちんと育てるイメージがなさそうに見えるが、そんなことはない。
楽天さん、噺をワンクッション置いてふわっと捉える感じがあるのがいい。
この噺、「いちはちじゅうのもくもく」をどうしてそう無理やり読んで教えてくれるのかが謎である。
理由らしきものをくっつけてやる人もいるけど、なんだかよくわからないふわふわした世界のほうが私は好きだ。

三遊亭良楽「太刀山の恩返し」

このあたりで、パイプ椅子ごとお膝送りの指示が出る。前のほうに詰める詰める。異様な熱気。

必ずといっていいぐらい、両国寄席では相撲噺が掛かる。本場所が始まっていればなおさらだ。
そんなに相撲噺あるのかよと思うのだけど、これが意外とあるのですな。
「花筏」「大安売り」「半分垢」あたりは、他団体でもちょくちょく出るからわかるが、他にも「佐野山」「阿武松」「稲川」あたり、円楽党ではよく掛かる。
知らない噺が出た。
良楽師もご出身の、富山の偉大な横綱、太刀山の噺。先場所優勝の朝乃山と同郷。
内容は、ほぼ講談。実際、扇子で膝を叩く所作がかなり入る。
釈ネタなのだろうか。調べてもなにも情報が出てこないが、きっとそうだろう。
地の部分でしっかり笑わせるのだが、そのやり方も講談っぽい。
講談らしく特にオチらしいオチもないストーリーなのだが、太刀山と常陸山、迫真の取り組み描写がすばらしい。
最近読みだした鳥羽亮の時代小説の、チャンバラシーンみたいな迫力を感じた。
落語にも、実にさまざまな楽しみ方の角度があるものだ。
最後に、地元のヒーロー朝乃山にエールを送る小噺で締める。

その次が色物さんで、マジックの荒木巴先生。ともえ姫だそうな。
初めて観るが、楽しいおふざけマジック。寄席のマジックはふざけるのが仕事だが。
怪奇ニワトリ女のネタは、マジックですらない。
満員で熱演のため、落語が時間押し気味らしく、短め。

三遊亭王楽「新聞記事」

王楽師は久々。
一見にこやかだが目が笑っていない人の芝居にようこそと。
最初に隠居から教わったウソ話をしにいく相手が、天ぷら屋の竹さん。昔の型だ。

決して嫌いな人じゃないが、この新聞記事はいただけなかったなあ。
マクラでばっちりつかんだ多くの客にはウケてたようだが、私には、ギャグをひたすらぶっ込んで、噺を意味なく破壊してしまった印象だけ残る。
もともと、こういう危うさのある演出をする人だと思うのだ。どこかでグッと引かないと。
八っつぁんが、新聞はコボちゃんと社説しか読まないと言って、隠居に「バカなのか賢いのかわからないね」と言われているあたりまでは非常に楽しいのに、とにかくやりすぎる。

古典落語を、余計なクスグリに頼らずきちんと語ると、本寸法だなんて言われる。
そうしたレッテル貼りを良しとせず、面白落語を追求する人もいる。それ自体が悪いことだなんて、ちっとも思わない。
だが、面白落語が完成を見せる前に、ギャグのムダ打ちに白ける客もいるわけである。
面白落語は、既存の噺に対して抱く客の価値観を根本から揺すぶってくれるからウケるのであって。
特にこの噺は、春風亭一之輔師が完成形を作ってしまった。面白落語としてやる人の、どれを聴いてもかなわないなと思う。
勘違いした二ツ目がしくじった一席、といった印象を受けてしまった。
隠居と八っつぁんの関係性、八っつぁんと豆腐屋の関係性も描いていない中、ギャグだけ放り込んだ一席。
父・好楽や兼好師など、誰かアドバイスしないのかな。
若旦那の将来がいささか心配になる一席であった。
まあ、固いスタイルも持っている人だから、心配することなどないかもしれないが。
でも、一皮むけるための武器が、現状ない気がする。

続きます。

作成者: でっち定吉

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