入船亭の「たらちめ」言い立てを覚えよう

「たらちね」はよく掛かる前座噺。何度聴いても飽きない楽しい噺。
私はひらがな表記を好むが、漢字で書けば垂乳根。
だが、入船亭だけは「たらちめ」である。漢字だと垂乳女。
「たらちねの胎内より出でし」であり、意味は同じ。

入船亭では、実に頻繁にたらちめが掛かる。
そして、この一門だけ、言い立てが違う。
言葉のバカっ丁寧なお嫁さんのセリフが、一般的なものより長いのだ。
ちなみに長い言い立て、一門以外では柳家小はだ、桂空治という前座(当時)から聴いている。
先代入船亭扇橋は3代目三木助の弟子であり、芸術協会の出である。もともとそちらにあったものか。

私は一般的なたらちねの言い立てはそらんじている。

§

自らことの姓名は
父は元京都の産にして
姓は安藤
名は慶三
あざなを五光
母は千代女と申せしが
わが母三十三歳の折
ある夜丹頂の鶴を夢見てわらわを孕めるがゆえ
垂乳根の胎内を出でしときは鶴女
鶴女と申せしがそは幼名
成長ののちこれを改め
清女と申し侍るなり

§

寿限無と違って、バリエーションはほぼない。
せいぜい、お嫁さんご本人が清女でなく千代女になる程度だ。
他に唯一存在すると言っていいバリエーションが、入船亭のもの。
これをずっと覚えたいと思っていた。ただ、活字になったものも、動画もなくて。
本気で探せばありそうだけど。というか、扇遊師のたらちめだってテレビで数回聴いてる気がするから、探せば持ってるんじゃないか。
ともかく今日、NHK演芸図鑑に一門の総帥、扇遊師が登場し、たらちめを掛けていた。
早速活字に起こして、覚えよう。
すでに入船亭の噺家さんから聴くたび、うろ覚えのまま唱えていたので(声なんて出さないけど)、覚えは早いはず。
さて、入船亭の言い立てはこうである。

§

そもわが父は大和の侍
四条上がる横町に住まいを構え
苗字を佐藤
名を慶三
あざなを五光と申せしが
三十路にめとりしわが妻の
そは我が母のことにて侍り
子なくしてみとせ経ぬれば去らるると思うことから
天神に掛けし願いの届きてや
短き春のたまくらに
梅枝を胸にささるると
みしより早く夢覚めてほどなくわらわを懐胎し
とつきをすぎてとやのこと
垂乳女の胎内を出でしときより
すこやかに鶴女、鶴女と申せしがそは幼名にして
成長ののちこれを改め、千代女と申し侍るなり

§

字を埋めてから、細かい所を検索したのだが、わからないのもある。
「みしより早く」がわからない。たぶん、「見し」だが。
埋めながら検索するといろいろ引っ掛かる。玉屋柳勢師のブログに両方の言い立てが出ていたが、「みしより早く」は抜けていてわからない。
というか、このブログ読んだことあったがな。やはり、単にリサーチ努力が少なかったようだ。
ちなみに扇遊師のこのたらちめだが、三代目金馬から南喬師に伝わったんだとか。
なら、先代扇橋は関係ないのだな。

たまくら、は手枕。
とつき、とやは十月、十夜。

ともかく、ようやくこれで活字に起こせた。
ゆっくり覚えるとしよう。

ところで、たらちねには他にもフレーズが出てくる。
「いったん偕老同穴の契り」から始まるお嫁さんの挨拶とか。
もっと前に、ひとつ気になるフレーズがある。

§

りんしちくりとうでござんす
うんきんだらりんかんちくりん
かんだつみょうそうしんにょ

§

八っつぁんが「すたんぶびょう」に対抗して、アドリブでひねり出すセリフ。
りんしちくりとう、は七輪と徳利をひっくり返したもの。
かんだつみょうそう信女は、字はわからないが(リサーチ不足)死んだおふくろの戒名。
この間の「うんきんだらりんかんちくりん」である。この説明は、誰もしない。
誰もしないことに疑問も持たなかったのだが、誰かからヒントをもらった覚えがある。
これ「熱いとキンがだらりん。寒いとちんちくりん」の意味ではないのか。
まあ、こんなもん説明できないわなあ。

作成者: でっち定吉

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