柳家花緑「中村仲蔵」(日本の話芸と浅草お茶の間寄席)

先日は柳家花緑師の「同時代落語」を酷評してしまった
洋服で椅子に座った様式美云々は別にいいのだ。新作落語がこれだけ発展している今、あの内容ではなと。
ちなみに、春風亭昇吉師の高座を観たときに味わう、あの気恥ずかしさも漂ってきた。

さて、酷評したままでは私も寝覚めがよくない。
そう思っていたら、日本の話芸で「中村仲蔵」が出ていた。
またしてもNHKだが、これで口直し。

ちなみに花緑師が好きでない人の感想も、わかる。
語り口は軽い。余韻を残さない口調といえばいいか。
私は作家・今野敏の警察小説を愛してやまないが、嫌っている人の感覚をほぼ完全に理解していると思っている。
なんだ大した事件もなく、謎解きもなく、勝手に主人公の身に複合的に問題が発生して、でもいつの間にか解決して大団円というだけじゃねえかと。しかも、だいたい同じような内容じゃねえか。
すべてわかった上で、私の大好物。

花緑師も、いろいろマイナス面は見えて、それに関するネガティブな反応も理解したうえで、でもいいなと思う部分もちゃんとあるのだ。
そもそも日本の話芸なんて、つまらない噺ばっかりだと思う人もいるでしょう。
それもわかるし、でも制作側がどの演者を呼ぶかといろいろ思案しているその様子も理解はできる。

前回の酷評を取り返そうとしつつ、中村仲蔵を何度か聴いてみた。
だが、どうも自分の中で盛り上がってこない。
そもそもこの噺を取り上げようと思ったのにも、同時代落語以外に伏線がある。
2年前に浅草お茶の間寄席で出していたトリの一席が中村仲蔵で、これがよかったのだ。
だが、当ブログで取り上げなかった理由もはっきりしている。
夜席トリで、はとバスの客も入っている。初心者が多いことを前提に、丁寧に丁寧にこの芝居噺の名作を語っていたのだ。
よかったのだが、初心者に寄せたやり方自体がちょっとなと。
初心者に合わせたモードなんて、落語にはなくていいんじゃない? まあ、中村仲蔵の場合、落語の前に芝居をわからせる必要性もわかるのだけど。
実際には初心者に毛の生えた程度の、つまり浅草演芸ホールの多数派からすると、「丁寧にやってますよ」と言われてもなと、そう感じないか。
だいたい、自分ははとバス側なのかしらと悩んだりしないか。
落語なんて、わからない部分もちょっとあるぐらいでいいのでは。

ここでちょっと触れた。
浅草演芸ホール4 その6(柳家蝠丸「死ぬなら今」)

だがこの、2年前のお茶の間寄席の録画を観返すと、つるんとした日本の話芸にはない迫力があった。
というわけで、今日取り上げるのは、2年前の浅草お茶の間寄席のほうです。
といってもいろいろ混ざってしまっているので、あえて録画を観返さず、記憶で書く。

と言いつつ日本の話芸に話は戻るが、冒頭の挨拶によると、中村仲蔵は三遊亭竜楽師に教わったとのこと。
珍しいところから来ているものだ。
竜楽師は師匠・五代目圓楽に、圓楽は先代正蔵(彦六)に教わったとのこと。
彦六は四代目小さんに師事していたので、五代目の弟子(孫)である花緑師としては、思うところある噺のようで。
まあ、彦六は小さんになれなかったので、海老名家から、三回忌すら済んでいなかった正蔵を強引に借りてきて、その余波がいまだに続いているのだが。

日本の話芸にも入っていたが短かったのが、花緑師自身の演芸論。これが浅草お茶の間寄席ではたっぷりで。
仲蔵が、五段目の定九郎をあてがわれて立腹しているところ、おかみさんが語りかける。
成田屋の旦那には、ちゃんとお考えがあると思う。名代になったとはいえあなたは名門の出でもないからやっかまれる。仲蔵ならちゃんと定九郎を仕上げてくれるとお考えなんじゃないのかい。
ここで噺をちょっと脱線する。地噺の手法。もともと地噺っぽい噺だが。
師匠である五代目について語る花緑師。
五代目小さんは、「芸は素直がいちばん」といつも語っていました。
噺を教わって、まず教わったとおりにやってみる素直さが必要なのだと。
教わっておいて、「いや師匠、この部分はこうですからこう変えたほうがいいんじゃないですか」という若手がいたのだと。
一度やってみて、納得行かないので変えるのはいいのだ。まずやってみる素直さが大事。
だから、仲蔵という人も素直だったんでしょうね。
ただこれが談志師匠だと、「師匠、その素直ってのはなんだい」(モノマネ入り)になってしまいます。

落語界ではよく語られる芸論だと思う。
だが、先代小さんがやるような噺ではなかった中村仲蔵に、芸論を見出す花緑師。
ちなみにパワハラっぽい淀五郎だったらどう語るのだろう。

妙見さまの茶屋で遭遇する侍も、その工夫を入れてみる舞台も、決してやりすぎないがいい迫力。

ちなみに、サゲは花緑師が作ったそうで。
花緑師の前に、弟子の勧之助師から聴いている。
高座で師匠の悪口を披露する勧之助師だが、芸は師匠の言いつけどおり素直なようで。

古典落語だけやっててくださいなんて花緑師に言う気はない。
同時代落語は、弟子(特に花いち師)と相談してブラッシュアップしていただきたい。

作成者: でっち定吉

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