滝野川「みやこ鮨」の三遊亭遊馬(中・お見立て)

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遊馬師は最近やたらケガをしていると。いろんなところで会をやるが、高座に上るステップやハコウマなどが壊れて、ひっくり返る目に、続けて二度遭ったそうな。
本当に痛いのだが、わざとやったと思われて大ウケなんだと。
15分そんな話をして、「世間話も面白ければいいんですけど、別に面白くもないという。本題に入りますね」と自虐モード。

お遊びの噺をと。
私は、飲む打つ買うでは「飲む」がもっとも好きでしたが、アルコール依存症になってしまいましたので今は飲みませんと。
これはシャレではないらしい。
観音様の裏手、吉の原にフォーカスして、「お見立て」へ。

お見立て、私はそれほど好きな噺ではない。
本来はとても面白いストーリーだと思う。だけどその分、噺がカチッとでき上がってしまっているわけだ。
喜瀬川花魁のウソがどんどんエスカレートして、若い衆の喜助が振り回されるという、一本道。
あまり演者の工夫は入れづらい気がする。
そうすると、誰のを聴いても基本一緒になってしまいかねない。好きじゃないというのはそれが理由。
だが、そういう噺だからこそ、本格派の遊馬師でちゃんと一席聴いてみようではないかという気にもなる。

さすがは遊馬師で、喜助の主体性のない性格描写が面白い。
喜助は、その場のややこしさをなんとか乗り切ろうとしか考えていない。だから、花魁のアイディアで言われるままに行動してしまい、次を考えない。
その結果、次々に苦難が襲い掛かってくる。
苦難なのだが、困難に対する主体性に欠けているので、最後までフラフラしたまま。
杢兵衛大尽はキャラの作りやすい田舎者だが、そんなにフィーチャーしない。普通は演者が力を入れたくなるところに思うのだが、そうしない。
遊馬師の場合、喜助が主人公であることが明確であり、杢兵衛大尽と喜瀬川花魁は、狂言回し。
作りが丁寧で、サゲに登場する大事なキーワード「お見立て」が、寺へ向かう場面だけでなく、噺の冒頭から早速登場している。
線香を買うときも、「煙のたくさん出るやつ」と注文しているが、どれも一緒と言われるくだりが入っている。そりゃそうだ。

花魁のほうも、はなはだ適当である。適当に「見繕って」と3回喋っている。喜助も、あなた見繕ってばっかりですねと。
大した作為がなくして、若い衆を振り回す花魁。

墓参りのシーンで「享年三歳」をひとつ先取りして、「享年三年」という変なフレーズが入っていた。これはもう、流すしかない。
享保三年と混ざっちゃったんだろう。すみませんね師匠、変なところ覚えてて。

15分のマクラを含み、45分の長講。
冒頭で、2席やって仲入り後もう1席とアナウンスしていたのに。
この、お見立ての長いマクラでも遊馬師語っていたが、最近、噺が時間通りにできないんだそうだ。先の広小路亭でも、20分の枠をもらっているのに噺が終わらなかった。
まあいいじゃないですか。そういう緩い感じも。
熱演で思わず伸びてしまうという人もいるだろうが、そうではなくて、別の要素によるものなんだろう。

座ったまま次の噺へ。
お遊び場所は、吉原だけではないと、江戸の四宿の紹介。
中でも品川は大きかった。城木屋で御職を張るお染という女がいて、と。
あらら、なんと廓噺を続けて掛けるのだ。ご自分の会だからこんなのも自由。
品川心中へ。
廓噺を二席なんてことは普通はしない。噺のイメージが混ざってしまったりするから。
だが、そんなことはまったくなかった。はっきり別の噺だ。

続きます。

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作成者: でっち定吉

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