(広告)[オーディオブック] 三遊亭遊馬 其ノ弐 [CD版]
冒頭の説明が丁寧な品川心中。いかにしてお染が心中を決意せねばならぬ状態にあるのかを。
そして、心中相手を選び出すお染の心情を、ちょっと脱線し、遊馬師がお客に出す会の案内になぞらえる。
せっかく会のチラシを出したのに、宛先不明で返ってくると凹むのだと。そりゃそうですね。
続けて廓噺を聴くので、丁寧な説明部分は客の気持ち的にも重要だ。
今から死のうというのに、非常に呑気なふたり。
飲み食いしたっていいや、銭払わないんだからというのは、本屋の金蔵のほうだった。
死ぬための匕首を親方のところに忘れ、お染が出してきたカミソリを嫌がる金蔵。
お染が金蔵をぐいぐい引いて、真っ暗な桟橋を進んでいくシーンの描写は白眉である。
でも、やっぱり切羽詰まってないところが好き。
お染が金蔵を海に叩き落し、後を追おうとするところで若い衆に止められる。
なんでも、50両は流山の杢兵衛大尽が持ってきてくれたんだそうだ。なんと、一席目とコラボ。
一席目のお見立ての杢兵衛大尽は勝手に来るのだが、こちらの杢兵衛はお染の手紙で来たらしい。
死に損ないの金蔵が野良犬に追われつつ、ようよう神田に戻り、大混乱。
与太郎が便所から上がってきて、そこでサゲかと思ったら、なんとそのまま噺は続く。
驚いた。幻の演目というと大げさかもしれないが、品川心中の「下」に入る。
私も、圓生でしか聴いたことがない。
「下」というか、後半があまり掛からない噺としては、「大工調べ」「宮戸川」「替り目」などがある。
あとのふたつなど、なかなか掛からない後半を聴かないと、演題の意味がわからない。
それらの噺はそれでも、たまには聴ける。品川心中の「下」はまったく初めてだし、今後聴く機会もそうそうあるかどうか?
調べると、やる人は結構いるのだ。
さん喬、雲助、馬生、今松、談幸、兼好と。もっといるだろうが、いずれにしても寄席では聴けない。
雲助師は落語研究会で掛けたようだが、録画しそこなったみたいで、私は持ってない。
品川心中を通しでやらない理由ははっきりしているだろう。あまり面白くないから。
上は人の生き死にを扱っていながら、いや、だからこそというか面白い。だが終始ドタバタの「上」の後、復讐の噺である「下」は続けづらいのだ。
だが、遊馬師にかかるとこの後半がとても楽しい。
「上」を、ギャグたっぷりにやり過ぎたりすることのない、抑制の利いた芸だからだろう。
「下」に入っても、トーンが急に変わらないので、違和感ゼロ。
復讐も、非常に軽いのである。しかも、失敗に終わるし。
失敗したからといって別に残念でもなく、楽しい世界。
遊馬師、品川心中を終えて横目で時計を確認し、まだ続けてもいいんですがお店の都合もあるので今日は二席でと。
続けて聴いて、1時間半。非常に密度の高い席であった。
遊馬師に見送られ会場を後にする。品川心中「下」の感激だけは伝えさせてもらった。
初めて訪れた完全アウェイの会であったが、遊馬師の話術に引き込まれ、居心地の悪さは特に感じなかった。
寿司屋の雰囲気も気に入った。食事込みで再来しようと思う。
今度は家族を連れて来るつもり。落語の前後、昼か夜に寿司をつまみたい。