七人の侍3(上・瀧川鯉橋「里帰り」)

想定外に仕事が片付いた。
土曜に、いいメンバーの揃った渋谷らくご(百栄、小痴楽、わさび、吉笑)に行くつもりだったが、繰り上げて雨の金曜日、昼間に出かけることにする。
お江戸両国亭の勉強会で、七人の侍。芸術協会と円楽党の混合。
以前は日本橋亭だった。休館に伴い場所を替えている。
昨年二度聴いた際は五人。その後小助六師が抜けて鯉朝師が入り、さらに三遊亭藍馬師が加わって六人の侍になっている。
藍馬師は二ツ目(橘ノ双葉)以来の遭遇である。

青菜枝太郎
里帰り鯉橋
棒鱈鳳志
(仲入り)
すたんどさん鯉朝
一眼国藍馬
阿武松楽生

両国はつ離れそこそこ。
でも120回目だった前回は、30人以上入ったんだそうだ。

テケツには藍馬師。
そして鯉朝師がいらっしゃいませと迎えてくださる。
両国亭、円楽党の両国寄席以外で来るのは初めて。

トップバッターは桂枝太郎師。
メクリが出ておりませんけども、蝶花楼桃花と申します。嘘です。
その後、正しい名は名乗らない。いいのか。
この会は勉強会でして、ネタおろしであるとか、昔覚えたきりの噺とか、寄席ではやりにくいネタを出すわけです。
断っておかないと、こんなもんかと思われますから。そんな予防線も張りまして。
季節のネタも、気づくと出し損ねますのでと振って、青菜。

例によってギャグだらけ。都知事選のネタも入ってた気がするが。
柳陰をたっぷり飲んで、なんでこんなに入念に飲んでるかと言うと、まだ楽生が来てないから。つながなきゃ。
鯉の洗いに敷かれた氷を、皿を持ってしゃぶり尽くす植木屋。
「拍手もこねえや。浅草だったらウケるんだけど」
そんなので拍手する客はイヤだ。

「鞍馬から牛若丸がい出ましてその名を九郎判官」は、植木屋には「くらまさんと牛若さんのきんたまが黒くなった」と聞こえる。

ギャグ除けばわりと一般的な型だが、展開はアッサリめ。
これでバランス取るのだった。
やってくるのは弟分らしく、植木屋をアニイと呼んでいる。
青菜嫌いなくだりはアッサリ。
押し入れから出てくるかみさん、息も絶え絶えに「鞍馬から牛若丸が」。ここで一度弟分のツッコミが入る。

続いて日曜に聴いたばかりの瀧川鯉橋師。
この師匠で外れたことはない。
大師匠、柳昇の話。
鯉朝アニさんにとっては直の師匠です。
亡くなって20年になる大師匠に、前座の頃だろうか、ご馳走してもらったことがある。
健啖家の柳昇は、70代でもトンカツをペロリ。食べるのも早い。
食べるのが遅い鯉橋師がモタモタしていると、「きみ、戦争中だったら撃たれてるよ」。

直接の師匠、鯉昇が見聞きした話。
末広亭の楽屋でもって、柳昇が弟弟子の4代目柳好と語らっている。
アニさんは歯が丈夫でいいですね。アタシは総入れ歯ですから。
なに、君みたいに頭がフサフサなほうがいいよ。外出たってフサフサだったら見栄えがいいじゃないか。あたしなんか歯が丈夫ったって、見せびらかして歩けるわけじゃないし。
こんな話を大真面目にしてるのが、鯉昇にはとても面白かったそうです。

寄席ではやらない約束で師匠の許しを得た、柳昇の噺を今日はやります。
私は柳昇の噺、だいたい聴いているので嬉しい。
桃太郎師以外にもやる人がいるのだ。

老夫婦宅に、嫁に出した一人娘の「はる」がいきなり帰ってくる。はるが来た。
と聞けば、これは「里帰り」。
なんでも、嫌味な姑に耐えられなくなったのだ。もう戻らないつもりで出てきた。お父さんが戻れと言うんなら、あたしあの人殺しちゃう。
よし、大事な娘をひどい目に遭わせるそんな姑は殺しちゃえ。お父さんが戦争中手に入れたいい薬がある。これを飲ませろ。
警察に疑われる心配はないが、問題は近所の評判だ。
近所を欺くため、演技でいいから嫁姑の仲の評判をよくしてから殺しなさい。

私が関わってる「スカっと系」なら、嫁が姑をひどい目に遭わせて復讐するところ。
柳昇の落語はひと味違う。そして、全然古くならない。

益田太郎冠者作「かんしゃく」の改作なのだと思っているのだが。
父親の計略により、みんなが幸せになる落語。
ひとり娘を案じる両親に、人情噺の空気が濃厚に漂っている。
そして、鯉橋師の語りが非常にマッチしている。
古典をじっくり語る鯉橋師だが、まったく同じ方法論で新作も語り、そしてベストなマッチング。
大満足です。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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