新中延寄席(中・春風亭柳若「青菜」)

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笑福亭希光「秘伝書」

希光さんから。上方落語。
最近この人のファンなのだが、神田連雀亭でしか聴いたことがない。
地域寄席ではスタイルを変えてくるようだ。前回の客が少ないとのことで自己紹介から。
師匠につけてもらった希光の名には「のぞみ」と「ひかり」が入っている。
師匠、鶴光は本当はつるこうではなく、つるこなんですと。鶴瓶師匠がつるべえでないのと同様。
だから、僕もほんとはきこなんです。街で会ったらきこ様と呼んでください。

そして闇営業問題に触れ、われわれもみんな闇営業なんです。直でやってますから。事務所入っている人少ないですから。
先日、私が想像を交えて書いたことを裏打ちしてくれている。
だけど希光さんは、師匠と同じ松竹芸能所属なんだけど。
やはり想像した通り、東京にいると、松竹の世話になることはほとんどないようだ。

千代田区の保養施設が湯河原にあり、神田の年寄りたちの会合があって呼んでもらったと。
落語始まる前から、長老がべろべろにでき上がっていたというマクラ。これは面白かった。
白目をむいたべろべろの描写がすばらしい。
希光さんは、かなりマクラを豊富に持っているようで、一度も被ったことがない。
軽くやりますとのことで、小噺の延長である「秘伝書」を一席。
まあ、私の好きな希光さんの姿はまだうかがえないが、一席目だしこんなもんだろう。

春風亭柳若「青菜」

その次、春風亭柳若さんは一席とのことだ。希光さんは、前座修業を一緒にやった仲間ですと。
この人も、私が知っているスタイルと若干変えてきている。
やはり噺家さん、行く先々の水に合わせるのだなと感心。
連雀亭で聴いていると、ぼそぼそっと喋るイメージの人で、それが面白いのだけど、この会場では声を張る。
マイクの利きが悪かったのかもしれないが。
この人のマクラは、いつもわりと一緒。
鹿児島出身で、江戸っ子を攻めたほうですと。
そして、やはり住んでいる新井薬師(中野区上高田)のマクラが入る。でもこの人の話は、内容を知っていても非常に面白い。
ちゃんとオチのある小噺。
じわじわ来る不思議な話術である。師匠(滝川鯉昇)譲りの、決してマジにならないふわふわした味がある。
客のほうからギャグを拾いにいくのだ。
若手といっても48歳の柳若さん、年の功なのか、たまにベテランのような味を醸し出したりもする。

本編は青菜。梅雨が明けるか明けないかのこの時季にはいい。
この人に対する私のイメージと異なり、非常に端正な、本寸法の芸であった。
噺家さんへのイメージは本当に、決めつけるといけない。聴き手の知らない引出しが無数にあったりする。
そして、端正であるがゆえに、爆笑という、聴いて幸せな一席。
クスグリでふくらませるのではない、古典落語を徹底的に掘り下げて作り上げたもの。
この日の柳若さんの青菜、「青菜」を破壊する春風亭一之輔師などのスタイルとはまったく違う。でも爆笑もの。そのことにいたく感銘を受けた。
爆笑に至るための方法論というものは無数にあるものだ。まあ、そもそも爆笑を狙いにいっていないと思うけど。
青菜では、客が引っ掛かりかねないポイントが2点ある。

  • なぜ植木屋は、旦那の真似をしたくなるのか
  • なぜカミさんは、植木屋の遊びに付き合ってくれるのか

これについて、しばしば詳細に説明してしまう噺家がいるものだ。
客への説明の前に、演者自身が納得したいのかもしれないけども、味消しに感じることも多い。
この点、柳若さんは実に自然。
カミさんが付き合ってくれる理由のほうには、若干説明が入っていた。隠し言葉が使えたら、いいところの出だと思われて一目置かれるぞと。
だが、真似をしたくなる理由については、あっさりしている。なぜやるかは一応説明しているが、やりたい理由については説明していない。
いいなあ、こういう軽いのを私は求めているのだ。
客の脳裏にも別に、?マークが湧くことはない。植木屋が、物語の中で自然にオウム返しに進んでいくため、疑問を持つ余地がないのだ。

続きます。

作成者: でっち定吉

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