新中延寄席(下・笑福亭希光「動物園」)

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春風亭柳若さんの実に楽しい「青菜」の続き。
クスグリは爆笑のためではなく、クスっとさせるために入れている。
かみさんが「いわしが冷めちゃうよ」といつも長屋で大声張り上げているので、最近では他の家でも、その声を聴いてからいわしを焼きだしているんだそうだ。
あと、路地の突き当りを吹く風は、涼んでいるジジイのまたぐらを通ってからやってくる。
さりげない描写が丁寧である。丁寧だからこそ、さりげないというべきか。
押し入れから出てきて、熱さでゆだってしまっているカミさんの描写も、さりげなく爆笑を呼ぶ。

前座を含めた若手も、真似のできない天才、一之輔を追いかけてケガをしないで、この柳若さんみたいな芸をまず目標にしたほうがいいんじゃないだろうか。
一緒に行った家内も、この日は柳若さんがかなり面白かったとのことである。
なお家内は「青菜」という古典落語を初めて聴いたそうな。結構落語一緒に行ってるのに。
メジャーな噺だが、季節ものだからまあ、そんなこともあろう。

笑福亭希光「動物園」

仲入り後の希光さんは、時間が30分ほどあると思ったのだが、20分で手短に「動物園」を一席。
上方落語においては、極めてポピュラーな噺。
桂米朝の功績は言うまでもなく偉大なものだが、門下の噺家によると、この動物園の型を後世に残したことこそ、最大の貢献だったのだという。

ボディスーツのように、トラの毛皮を身にまとう男。でかい尻とでかい頭が通らなくて四苦八苦している。
こんな演出、初めて観た。
そうか。動物園なんて噺は、マンガの極致。動物の皮を被ってフリをするという、リアリティのかけらもない噺。
そんな噺は、あえてマンガっぽく描くのが常道。
だが逆に希光さん、疑問とともに、ここにリアルな方法論を持ち込んでみせたのだ。
トラの毛皮を真剣に着込むことで、逆にこの噺のくだらなさ、バカバカしさが強調される。
落語というのは、目的さえ見失わなければ実に豊富な方法論がある。だからこそ楽しい。

ライオンの皮を被ってくる園長の名前は「池田」。
こういうのも、誰か噺家の名前なんだろう。気になったので調べてみたら、恐らくだが、橘ノ円都の本名らしい。
以前、鶴光師の掛ける「試し酒」の「井上」さんについても調べたのだが、わからなかった。

抽選会があると事前に聞いていたのだが、中延ポイントカード保持またはFacebookで商店街をフォローという条件が厳しかったのか、抽選会はやらず、帰る客に商品を配っていた。
みんなに配っていたのか、あるいはエントリーした我が家の顔を覚えていてくれたのか、よくわからない。いずれにせよ、商店街で使える金券をもらう。
とにかく、そのお陰で商店街で買い物もして帰ってきた。だから入場料も一部返してもらって非常に得した気分。

久々に、地元に近い地域寄席に出向き、なかなか楽しかったです。
第3回があるかないかも未定のようだが、あるならまた考える。
2時間やってくれれば嬉しいのですが。

(追記)小佐田定雄「米朝らくごの舞台裏」に「池田」という名前のことが書かれていた。
角座でへたり(自ら前座にとどまる人)を務めていた、桂文蝶という人の本名だそうな。

作成者: でっち定吉

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