馬遊・喬太郎落語会2(下・柳家喬太郎「一中節門付け」)

よく考えたら、地獄が舞台の落語は多少あるが、極楽が舞台というのは初めてかも。
蜘蛛の糸を、長屋住民たちが次々昇ってくるので釈台にしがみつき、必死でこらえる蜘蛛。
釈台の使い方をまたひとつ生み出し自画自賛の喬太郎師。

仲入り休憩後は、馬遊師かと思っていたらもう1席喬太郎師。
馬遊師について、亡くなる前の川柳川柳はあんな感じだったって。

地のセリフで、まだ若いのに根岸に隠遁している尼さんを描く。食事は叔父の家から運んでもらえる。
尼さんと言っても修行をしたわけではない。
この尼さんの俗名はお若。
最近やってくる陰気な一中節の門付けがある。陰気で滅入る一中節は門付けに向いてないのではないか。
しかしなんでも、いい男らしい。
こっそりこの男を覗き見するお若。あれは伊之助さんじゃないの。

お若、そして伊之助。
なんだこれは。
「お若伊之助」の続編らしいことがだんだんわかってくる。ただ、演者はその説明を一切しない。
これは難易度高いなあ。仮にお若伊之助を知らなかったら、なにがなんだかわからないんじゃないか。
と思ったが、物語が進むに連れ、前編の模様はポツポツ語られていく。
伊之助は、カシラが行ったり来たりするので事件の一部は知っているが、全体についてはよく知らないまま。
なるほど、徐々に全体のストーリーがわかってくるという緻密な構成。
喬太郎師が作り上げたみたい。

お若伊之助の本編では、伊之助は狸の化けたニセモノである。
この続編においては本物。
化け物騒動の前に、手切れ金をもらって泣く泣くお若と別れた、本物である。
そして、根岸の地で改めてデキてしまう。
当たり前だが、手切れ金までもらっておいてまたずるずるべったりなんて許されるはずもなく。

食事を運んでくる使用人に、土間の履物を見られてしまい、バレたのでカシラが飛んでくる。
履物を見つけるシーン、目だけで描写するのが見事だ。
もはや仕方ないと、二人で逃げる。その部分まで。
正直、お若伊之助のほうが聴きたかった。もっとも20分じゃできないけれど。
この続編は20分だったのだ。

ストーリーはわりと平板。ただ意外なぐらい面白かった。
圓朝の続きものにありがちだが、長い噺のごく一部だけ語ることにより、噺の全体像が浮かび上がってくるという楽しさ。
お若伊之助という噺をまったく知らない場合、浮かび上がるかはやや疑問のところもあるけれど。
でも、知らない客も、今回の噺から遡って志ん朝でも聴いてみればいいのではないかな。

そして、偉大なる三遊亭圓朝と一緒に、現代の噺家柳家喬太郎が噺を組み上げていくというそのロマン。
宮大工の伝承みたいなものだ。
そして、お若と伊之助がめぐり合うというのは、「因縁」や「執着」によるものなんだと思う。
つまり圓朝とテーマが同一なのだ。

最終の汽車で横浜まで、そしてあたしのおばさんが住んでいるところに隠れようと伊之助。
「この続きは、扇辰・喬太郎の会で披露いたします」とのことでした。
あうるすぽっとでの第84回扇辰・喬太郎の会でネタ出しされている「品川発廿三時廿七分」という作品。
ちなみにこのタイトルで検索すると、新幹線の時刻表が出ます。

最後の一席は、また馬遊師で、鰻の幇間。
夏になるとやってみたくなる噺ですとのことだったが、先に演題は言わない。
大師匠、10代目馬生の話をしていた。
ご本人とお客さんの話も。「師匠、あそこの所作いけないよ」とか口うるさいお客に言われる。
面倒ではあるが、でもそういうお客さんに支えられているのだと。

漫談は面白かったけども、馬遊師の古典落語大ネタは、やはりちょっとくたびれる。
穴釣りから入る、50分ぐらいの一席だった。
前回、70分の富久に比べれば全然大丈夫だが。
編集のメリハリが少ないみたい。
特に大ネタというもの、その先のストーリーが全部頭に入っているもので、「まだここか」と思ってしまうのはある。

道端で会う旦那とは、まったく面識がない。
ただ向こうは、どこかの葬儀で芸人の顔を見て知っている。最初から騙す気満々。
鰻も酒も、最初からまずそう。とってつけたように仲居に苦情を述べるわけではない。
縫い付けた10円札で支払って、釣りはもらう。ちなみに、1円札が出てきていたが。

入院の漫談と、「災難に遭う」という点で通底しているのかもしれない。
そういえば富久もそうだ。自然と芸人のご難に向かってしまうのだろうか。
馬遊師が、白鳥師の富Qに、寄席に出られない噺家として名が出てきたことも思い出す。

決して大物とは言えない、しかし人望の非常に高い噺家の、一種のドキュメンタリーが目の前で繰り広げられている。
というわけで、今回も楽しい会でした。
できればまた参戦したい。

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作成者: でっち定吉

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