浅草演芸ホール5 その4(春風亭昇太「ストレスの海」)

仲入り後のクイツキは桂宮治師。
先月久々に聴いたばかりだが、早速また。
前回取り上げた一席は、非常にアクセス多かった。主役の雨花師の記事より多かった。

どこの誰だかわからないヤツに盛大な拍手をありがとうございます。
そして「戸越銀座!」の掛け声なくても、自分でこのネタを振る。個人情報のうるさい折、訴えたら勝てるんじゃないか。
そうか。前回の掛け声もお約束なんだなと。
本編は手水廻し。大阪弁が上手い。
ズクネン寺の和尚が出てこない、スピーディな一席。
和尚によれば長い頭をちょうずという、と情報だけ持って帰ってくる。
よく考えたらこの噺、堂々巡りが多いよなと思う。それをバサッとカットする、さすがの編集力。
そもそも知らない「手水を廻す」という言葉を無理に当て込んだ噺であるから、笑うまでに距離があるわけだ。
長い距離をショートカットして、感覚的に笑える噺にしているところが上手い。
長い頭を振り回す場面をフィーチャー。ここはもう、馬鹿な人がなにかやってるシチュエーションにたどり着いているので、ストレートに笑いを生む。

いったんなにもかも間違ったあと、主人と板長が大坂に向かうが、もはやすべてが間違っている人が完全に間違った行為をしている。
なるほどと思った。
この噺、難しいのだなと改めて思った。そこを軽々飛び越えていく。大したものだ。

宮治師のウデとは関係ないけど、噺の穴。
大坂のお客さん、どうして東海道を下ってくる途中で、「手水を廻す」という表現が通用しなくなることに気付かなかったんだろうね?
もともと上方落語だから仕方ないが。

ねづっちはオリンピックから始まって、嫁のネタ、上の東洋館の痛い客のネタ。
嫁のネタも知ってるものだけど、改めてたくさんあるのだなと思う。
学校寄席で遭遇した、やたらツッコんでくる痛い生徒のネタも。
噺家がマクラで語ったら即ウケる内容ばかりだが、あいにくねづっちより楽しく語れる噺家はいない。
ちなみに学校寄席のネタを、噺家が先に出してたら被ってしまう。たぶんねづっち、楽屋で前座さんにリサーチしてるんだと思う。
ネタ帳では、学校寄席が出たことはわからないから。

副会長の春風亭柳橋師、連日にゅうおいらんずでどうやらお疲れ気味らしい。
金明竹の言い立てがちょっと怪しかった。
ちなみに昨年末にも聴いたので、私がそらんじている金明竹言い立てと別のこのバージョン、覚えたかもしれない。
掃除も傘の断りもなく、おじさんと与太郎の会話のあと、いきなり上方男がやってくる。

次が芸術協会会長、春風亭昇太師。
豪華メンバーが続々出てきて、しばらく行っていない初席みたい。
国立演芸場もないため、上席の芸協はここ浅草と広小路亭だけだから、集めやすいのはある。

笑点マクラなのも初席っぽい。
笑点いま、視聴率すごいんですよ。日テレの番組で1位だったりするわけですね。
なにがそんなにすごいのかというと、笑点だけ、進化をやめた番組なんですね。
まわりの番組がどんどん進化していく中で、ガラパゴス諸島みたいに取り残された芸人が集まりまして。
それが今や希少種だって言われてるわけです。
こんな世界、笑点とあとは相撲界ぐらいでしょうね。
別に笑点、メンバーみんなが司会者を目指してるわけじゃないんですよ。ぼくもそうで、回答者のほうが本当はいいです。
司会者っていうのは人の発言を受ける立場でしょう。本当は自分のネタでウケたいわけですよ。
歌丸師匠もそうでしたけども、基本的に司会者はいちばんキャリアの長い人がやるものだったわけです。
でも歌丸師匠が勇退するとき、その次に長いのは黄色でしたから。
世間では、円楽師匠だと思われてましたね。紫というより黒い人です。
日本テレビに呼ばれまして。実は昇太師匠に司会をお願いしたいんですと言われました。
円楽師匠なんかいるじゃないですかと訊き返したら、激しく首を横に振られまして。「人間性です」。
そんなわけで司会になりました。
この世界は縦社会ですから、先輩たちはなかなかぼくの指示に従ってくれないわけです。それはまあ、仕方ないですね。
でも今、新しいメンバーたちもぼくのいうこと聞かないんです。縦社会はどうなってるんでしょうか。

楽しい漫談だけで終えるのかと思ったら、ちゃんと本編があった。
しかも名作「ストレスの海」である。この偉大な作品が現場で聴けて、非常に嬉しくなってしまった。
昇太師匠はこの噺のおかげで世田谷に豪邸を建てたとか。
ひどい噺なのだが、バカウケ。蛇含草に替わって人が死ぬ。
主人公(奥さん)が最初から振り切れてるところが素晴らしいと思う。

ひとつ気になっちゃった。
巨人ファンの亭主に奥さんが、「ストレスたまるわねえ。お金にあかせてよその球団から選手引き抜いてその割に強いんだか弱いんだか」。
今年の巨人、全然こうじゃないからね。ヘルナンデスとモンテス、FA選手の丸が活躍し続け、若林のトレードの成功という、お金の使い方が12球団でも筆頭の上手い球団になっちゃった。
昇太師も、喋ってて変だなと思うのではないか。
今だと監督采配批判を抱えた中日ぐらいがちょうどいいかもな。

「ストレスがいけないの。行楽に行きましょ、行楽、こうらく」
「笑点じゃねえんだよ」

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. おじゃましまーす!
    今回の浅草演芸ホールシリーズ楽しいですねぇ
    寄席に行ってないのに行った気にさせてくれます
    あの、師匠のマクラいつもこーだよなぁとか昇太師匠の語り口調が思い浮かんだり
    地方在住で中々 寄席に伺う機会もないのでありがたいっす♪

    1. ご感想ありがとうございます。
      私自身も毎日、非常に楽しいのです。
      いい寄席に行ったなと思ってます。
      あと2日続く予定ですが引き続きどうぞよろしくお願いします。

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