堀之内寄席2 その3(桂宮治「大工調べ」中)

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吉本問題から始まる、反社とパワハラを巡る一連のマクラにおいて、宮治さんがやっつけた人と法人は以下の通り。

  • 笑福亭希光(こいつも、そんなに楽屋入りが早くなかった。そして、もう帰りやがった)
  • 三笑亭夢太朗(飲み会に来なかった前座たちを代表して謝っている、飲み会に出た前座の頭をつかみ、畳にすりつけ土下座させた)
  • 柳亭小痴楽(父の代から、お客の半分はヤクザ。本人の真打昇進に来る客も半分ヤクザ)
  • 鈴々舎馬風(反社どころか、盃をもらっている本物のヤクザ)
  • 金原亭馬生(馬風と同じくヤクザ)
  • 吉本興業(名前に「興行」がつくとおり、ヤクザ)
  • 浅草演芸ホール(運営会社が「東洋興業」つまりヤクザ)

私まだ川に浮かびたくないのでSNS禁止です、と本人が断っていたのをあえてここで晒しているのには、もちろん理由がある。
人を罵るマクラの数々、もちろんたっぷりギャグをまぶしてあって面白くはある。
だけど、やめて欲しいのです、こういうの。
毒を毒として聴かされたら、それはただの毒。薬にはならない。
毒を直接ぶつけられる客の身にもなってくれい。

言葉は怖い。どんな背景で話されたかは問わず、言葉自体がそこに残る。
噺家さんは言葉の使い手。
「言霊(ことだま)」なんて概念を持ち出さなくたって、そうだ。
「馬風と馬生はヤクザだ」なんて、客の前で言い放ったら、その言葉だけがいつまでも残り続けるもの。
こういう汚い言葉を一方的に聴かされるのは、ある種の暴力。
私は、好きな噺家さんたちを宮治さんが貶めたことを嘆いているわけではない。
ベテラン噺家をヤクザと言い放つ、その暴力性あふれる高座の姿勢自体に、遺憾の意を発する。
ここに文章で残しておく私のほうが、あるいはタチが悪いのかもしれない。
書き残すことにより、ヤクザ呼ばわりされる噺家への迷惑ももちろん考えるのだが、あえて問題提起させてもらいたい。

そもそもネタを語る立ち位置がおかしい。
宮治さんは、芸能界なんてのは本当にヤクザの集団なんだと語っているのである。
吉本興業はヤクザなのであり、会長・社長がみなヤクザなのは当然。恫喝もよくある、当然のことなんだと語る。
宮迫たちについていうと、そんな会社だと十分わかっているはずなのにクーデターを起こしたのは、企みがあるのだと上から批判。
そして、ヤクザと本当に近しい(といわれる)噺家については、この日の客に、ヤクザであることをわざわざ伝える。
そこに、私の理屈っぽい感性がカチンと来たのである。

芸能界はヤクザと近いと語るなら、それについて賛同するしないは別にして、論理的帰結としては「噺家はヤクザでいいんだ」でなければならない。
なのに返す刀でなぜ、わざわざ特定の噺家をヤクザだと、今度はそうでない立場から貶めるのか?
ネタに筋が一本通ってない。
仮に宮治さんが、裏社会とつながっている芸人を本気で非難したいというのであれば、なにも言わない。
だけど、ネタにしているのはそういう目的によるものじゃない。
ネタにされた人たちが「お前は俺の社会的地位を奪おうというのか」と激怒したときには、「シャレです」と言って逃げることなどできず、まったく釈明できないだろう。
本当に宮治さん、消されたらごめんなさい。
でもまあ、消されても自業自得だと思う。その場合、談志にはなれなかったという結論だ。

結局、宮治さんのやっていることは、なんでもかんでも目に映るものを貶めてギャグにしようということなのだ。そこにマウンティングの嫌らしさを感じてしまう。
談志なら、好き嫌いはともかく、人を驚かす姿勢の立ち位置は明確だと思う。
宮治さん、あるいはよほど鬱屈しているものがあるのだろうか?
腕は申し分ないのに、抜擢されるのは一回り年下の先輩、小痴楽と、自分と同じく口が非常に悪い癖に講談でブレイクしている松之丞。

馬風師がその筋から盃をもらっているというのはわりと有名な話。芸協の人は昔から結構高座でネタにしている。
だが、それをわざわざ客の前でリアルに言い放つってなに?
三笑亭夢太朗師の、世間から見たときには明らかな、パワハラのこともネタにする。宮治さんと同じ協会の大先輩だが。
なにもそんな豆知識の披露、頼んでない。
聴いてしまった以上、私この先、夢太朗師についての偏見が、もはや一生拭えないと思う。
聴き手にとっての暴力とは、そういうこと。
夢太朗師程度の師匠だったらdisってもいいやという、宮治さんなりの価値観すら感じてしまった。
夢太朗師のこのパワハラも、外形的には世間が許すものではない。だから、本気の告発だったら別にいいのだ。
でも、落語界というのはそんなところであると語るご本人は、客の前で昇羊さんへのパワハラをギャグにしているから、加害者側にいつでも変わることを予告してもいる。
自分も加害者になり、後輩に告発されるかもしれないという前提を保ったまま、平気で先輩を貶める。
なんだその変な平等主義。いじめ発信力の強いほうが勝つだけじゃないか。
迫真の大工調べの最中、ずっと一連の「告発」が気になって仕方なかった。これがじわじわと、噺に集中することを阻害する。

続きます。

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作成者: でっち定吉

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