プーク新作落語寄席2 その2(林家きよ彦「代行サービス」)

思い出したが、ごはんつぶさんは「湯屋に行くのに手ぬぐいが見つからない慌てものの粗忽」「鉄瓶ぶらさげていくのんびりした粗忽」の小噺も掛けていたのだった。
最後に楽屋で「襟止め」と下痢止めを訊き間違えた小噺。
こういう、擦り切れた古典小噺がきっと好きなんだろうなと思う。
古典の上手いこの人から、いずれ粗忽長屋も聴いてみたい。

仮面ライダーにツくのを承知の上での戦隊もの。
今日の番組はどうなってるんだって。この後のきよ彦ねえさんはプリキュアですよ。

怪人が街を破壊尽くしているところにヒーロー戦隊が登場。
怪人が言う。遅かったなヌケテンジャー。
戦隊は全員が粗忽なので、亀有に来ないといけないのに先に亀戸に行ってしまったらしい。
ピンクはいない。池袋の変身指南のお店に行っちゃった。

「もしも正義の戦隊が全員粗忽だったら」を描くバカ落語。
ちゃんとした悪役のほうが現場を取り仕切っていて、ヌケテンジャーたちにツッコミつつ、正義のヒーローとしてのありようを指導する。
怪人は、正義の味方がちゃんとやらないとキャラクターが売れなくなると心配もしているのだ。
ごっつええ感じでやってた「ゴレンジャイ」を思い出した。

ブルーはやたらと敵とレッドを間違ってタックルするし、グリーンは自分が何色だったか思い出せないし。
イエローは口上が言えなくて、いつものと言われて笑点大喜利の挨拶を始めるし。
そして合体して巨大化するが、粗忽なので、手と足がきちんとハマっていなくて役に立たない。
怪人は、悪役より先に巨大化するなとたしなめている。

ピンクがやってきて、併せ技を披露しようとするが、ブルーの持ってきた道具が間違っていて不発。
怪人は、お前ら絶対、ブルーを泳がせてるだろとマジな指摘。目を合わせないレッドたち。
サゲ付近はまるで思い出せないが、別によかろう。

続いて林家きよ彦さん。
開口一番、プリキュアはやりません。

いつもマクラが楽しい人。
ご本人が楽しいと思って語ってるからだと思うのだ。
そして今回発見したのは、ネタを語りながらの自己ツッコミが決してくどくないこと。
意外と、特に古典派はこれでマクラ失敗する人多いと思う。
自己ツッコミが多いと、話の腰を追ってしまう。きよ彦さんは決して邪魔にならない程度に入れている。

10年以上ブランクがあった剣道を始めたきよ彦さん。リバ剣。
先日、四段昇進試験を受けたが落ちた。
四段は、三段までとレベルが違い、指導者が務まる。

落語協会、特に柳家は先代小さんこのかた剣道の強い人が多い。
一番強い人、ご存知ですか。柳家小團治師匠です。この方は実に七段。
せっかく四段昇進試験を受けたのだから、そのことを話したい。
大所帯の落語協会においてほとんど接点のない小團治師匠に、楽屋で思い切って話しかけてみた。
実に喜んでもらえた。
その後小團治師から、達筆で書かれた分厚い「剣士の心得」が届く。お礼を言うと、よかったら稽古に来なさいと。
落語のではない。防具を持って小團治道場に出向く。
80を目前にした剣士だが、まあ強いのなんの。
それでも褒めてもらえる。
いやあ、君もきっといい古典落語をするんだろうね。
落語協会の総会で顔を合わせた際に小團治師にお礼を言う。「師匠、先日はお稽古ありがとうございました」。
周りがざわざわ。きよ彦はなんだかすごい古典を教わったらしいぞと。

きよ彦さんから、剣道の話はあまり聞いたことがない。
よく考えたら、彦いち師に入門したのは武闘派つながりだったんだろうか?

稽古を付けてもらった話から、師弟関係、徒弟制度へ。
タンス職人の師匠が弟子に声を掛ける。お前は入って何年だ。
3年になりました。
最近作ったものを見せてみろ。
これです。
うむ。いいデキだ。独り立ちを許す。
師匠、それは免許皆伝ということでよろしいでしょうか。
そうだな。
では、こちらの書類にサインを。
どういうことだ。
実は私は代行サービスの職員でして。このたび修業を代行させていただいてました。修業のご依頼人に免許を渡します。

流行りの退職代行サービスなどから思いついた作品らしい。
他人に代わって修業をするサービスがあってもいいわけだ。

見て覚えて技術を盗まないで、修業したことになるかと当たり前の抗議をする師匠。
だが、弟子の反論は的確で、ぐうの音も出ない。
師匠の仕事ぶりは撮影してYou Tubeに上げました。今バズってます。
タイパの時代ですから、技術を盗めなんていうことでは弟子も残りませんよと。

常識を裏返しておいて、しかも裏を走る家族のストーリーまで盛り込まれている贅沢な一席。

さりとて落語界の徒弟制度への批判になっていないところも面白い。
きよ彦さんの噺からは、落語の徒弟制度が「技術を盗む」なんて種類のものではないことも間接的にうかがえるのであった。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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