阿佐ヶ谷アートスペースプロットの入船亭遊京2(上・古今亭志ん松真打昇進について)

コーヒーがそろそろ切れてきたので阿佐ヶ谷に出向く。
東京一美味いと私は思ってるコーヒー豆のお店のすぐそばに、芝居の稽古その他に使うスタジオ、アートスペース・プロットがある。そこで月曜日に入船亭遊京さんが落語会を開いている。
今回は独演会。唐茄子屋政談ネタ出し。
以前聴いた記憶はあったが、なんのことはない、昨年のここでだった。
遊京さんは今年初めて。いつも検討しているので、意外である。

落ち着く空間である。
お客は9人。

来秋真打昇進の決まった遊京さん、ますます千鳥ノブに似てきた。
宮田昇先生にも似てるが、やはりノブ。特に笑顔が。

出囃子なしで登場。
今日は出囃子を止めてくれる人がいないものでして。
昨日は古今亭志ん松アニさんのパーティーでした。
後ろ幕が、「橋」をモチーフにしてるんですが、擬宝珠のひとつが、よく見ると(先代)志ん橋師のシルエットになってます。
志ん橋師匠、残念ながら昨年亡くなりましたけど、面倒見のいい方でした。一門の、師匠に先立たれた二ツ目を次々預かって。

志ん松アニさんにはずっとお世話になってまして。
上京してきたとき、師匠のお宅のそばに住みたかったんですが、駐車場だけでも3万円するようなところだったので諦めまして。
住んだのが三鷹台のアパートです。家賃3万3千円で、コインシャワーがついてました。
シャワーは5分間流れて、途中止まりません。なのであらかじめ泡だらけにしてから100円入れたりしまして。
冬はよく凍って、お金だけ取られるなんてこともありました。
隣が使ってたから、今なら出るはずだなんて突撃したり。
志ん松アニさんは、私の下の階にあとから入ってきました。
花いちアニさんに代わって入りまして。
大家さんは、私が入るとき噺家さんもう一人いますよって、契約してから教えてくれました。
幸い志ん松アニさんは、珍しくいい人でした。
師匠どうしが同じところにお住まいなので、毎朝一緒に通って、一緒に寄席にも行きました。
帰りに一杯やったりしまして。

このアニさん、ある日失踪しまして。
修業がキツかったそうで。
志ん橋師匠から、うちの師匠に電話があって、私が出ました。
きょう介が来ねえんだけども、なにか知らねえかと訊かれました。
最悪の事態が予想されたので、一同アニさんの部屋に行きまして、非常事態ですからとマスターキーで開けてもらいました。
開けたら、ビールの空き缶の散らかった、ただの汚い部屋でした。
おかみさんに、本人不在のまま叱られてました。

その後移籍してやり直すなんてことも考えていたようですが、一蔵アニさんに説得されまして。
「お前は志ん橋師匠が大好きなんだろう! なら辞めちゃだめだ」そしてタバコを握り潰して「お前が復活するまで俺は禁煙する!」
カッコいいなと。
ただ、志ん松アニさんがいなくなったあと、すぐ吸ってましたけどね。
それから師匠に詫びを入れまして。
その前にはすでに、辞めますって挨拶回りもしてたんですけどね。あわよくばうちに来いっていわれるかもって期待があったのかもしれませんが。

昨日パーティーを中座して、池袋演芸場に行きましたけど、ウケませんでしたね。
今日も行きますが、頑張ります。
5日間クイツキに入れていただいたんで。

思い切ってほぼ抑揚を付けず、じっくりこんなネタを語るのが実に楽しい。
真打昇進目前にして、自分の語り口を見つけたのだ。クイツキとは二ツ目にとって抜擢である(交互はけい木さん)。
落ち着いた語りだが、若々しさに欠けているわけでもなく。
ちなみに落語の本編に入っても、このフラットな語り口が遊京さんのホームポジションであり、必ずいったんここに戻ってくるのだということを発見した。
それはどういうことか。
「クサイ」という、場合により悪い評価が付く前に、戻ってこれるということなのだ。
三遊亭王楽師がちょっと似ている気がした。
ただし王楽師はもっとホームポジションが上層にあり、たまに、最も朴訥な語りに降りてくる。
遊京さんは逆に、最も朴訥な語りをホームポジションにして、ちょくちょく上を狙う。

マクラの内容も、自分自身の感情を薄く語るのが上手い。
逆に、まるで共感できない感想をベラベラ語って失敗する人多いよね。

NHK新人大賞の話も。
出ていない我々にとっては、本当に存在しているのか、まだ都市伝説の類です。
予選がまたビデオ審査に戻ったそうで。幸い、1次は抜けたとのこと(拍手)。
ただ100人を超える人数が30人になっただけで、先は長い。まだまだ都市伝説。
昔は予選を生でやっていたが、笑い屋さんが大変そうであったと。休憩中は顔が死んでいた。
これは一之輔師のマクラで聴いたことがある。

本線に出るためには○○枠がある。
これはコンプライアンス的に問題があるのででっち定吉においてカット。
学歴枠っていうのはないみたいだね。

今日ネタ出しの唐茄子屋政談は、志ん橋師匠に教わりました。
稽古で私が一席やっていると、違うとおっしゃって噺を止め、所作を徹底的に直してくださいました。
その前に一席やりますが、これはなんの関係もないネタです。

壺算に続きます。
どこかで聴いている気でいたのだが、初めてみたい。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

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