神田連雀亭ワンコイン寄席57(上・瀧川鯉白「よろめき」)

2か月振りに更新休みました。
土曜は吉原馬雀さんが出る神田連雀亭へ。
復活して二度ここで聴き、それぞれ上々の内容であった。
そろそろネタ被る頃かなとも思うが、それは仕方ない。

馬雀さん、最近は宮崎での活動が多いみたい。
東京では聴ける場所は多くない。
スタジオフォーや梶原いろは亭は呼んでくれないだろうか。
来秋は真打昇進だが、このままだとかえって東京の舞台が減ることになりそう。

その他のメンバーは芸協カデンツァ。
瀧川鯉白、昔昔亭喜太郎。
先月の連雀亭、喜太郎さんの「看板のピン」を取り上げたが、なかなかアクセス多かった。

よろめき鯉白
町内の若い衆喜太郎
十円の価値馬雀

つ離れしている。
前説の喜太郎さん、初めての客がいないことを確認し、スマホ電源の注意に絞り込む。
そして楽屋で話してたんですがと断って。
「今日、古典落語聴きにきたって方はいらっしゃいます?」
もしかすると江戸の風は吹かないかもしれませんだって。
結局自分が気を遣って古典落語にしたのだった。

トップバッターは、ロン毛の鯉白さん。
師匠譲りなのか知らないが、しばらく口を開かない。
そして、聞こえるか聞こえないか、それでもやっぱり聞こえない声で話し出す。
これで、この変態チックな演者に対し客が自ら身を乗り出すわけで、すごいテク。
人間、一度好意を持ったように錯覚すると、もう逃れられないのだ。
錯覚100%とは言わないけど。

ここに来るときはいつもそこのファミマで水2リットル買ってきます。
ここのファミマは、従業員みな愛想がよくて好きなんです。
コンビニにもいろいろありますよね。言っちゃったら全員クソみたいなところも。
いいコンビニは、お客さんもよくて、盛り上げていこうって気持ちが強いですね。
逆のコンビニは、お客さんのほうも乱暴だったりしまして。

連雀亭も同じですよね。
お客さんどうし盛り上げていこうなんて気持ちがあるといいですね。
こういう居場所があるといいと思いますよ。
親友がいてもダメらしいですよ。その人が亡くなっちゃったら終わりですから。
薄くても居心地いい場所があるといいそうです。
だからここで仲良くなって終演後ちょっと一杯とかね。

こんな話をしていたら、客のひとりが席を立って出ていってしまう。
まずい話をしていたとは、一切思わない。
その後別のお客さんが入ってきて、「おかえりなさい。あ、別のお客さんですね。今、話をしてたところで」

急に客が出ていってわからなくなっちゃう。
何の話してましたっけ。そう連雀亭ですよ。
私の会で、お客さんどうしのつながりなんて話をしていたら、来ていた女性におじさんがコクったみたいで。
そして二人とも来なくなりました。

ここに書いた話を思い出した。

世の中の落語を探す(趣味編)

なんだか労政事務所の職場環境づくり講座を聞いてるみたいなところもあったが、実際はそんな固いものではない。
マクラ全編くまなくエンターテイメントである。
しかし2リットルの水って、ボケ?

本編もまた変態チック。
マッサージ屋に男が訪ねてくる。
店主は休憩時間だったので睡眠中。
お願いしますよ。
今休憩時間なので。
ひとつよろしく、お嬢さん。
…私ですか。私、男ですけど。
それはすまない。メンヘラなので。
こちらへどうぞ横になってください。
スーツを脱いでこちらへとは言わんのか!
…すみません。スーツだとは思わなかったもので。
まあ、そうだろう。ネグリジェだからな。そして下には何も着ていない。

どうみても変態客なのに、マッサージ店の店主は過剰にツッコんだりしない。
しかしその困惑は客によくわかるという、実に達者なつくり。
落語だから状況が見えない点を逆手に取り、落語の客をあえて混乱させる。
実は新作落語の王道を歩んでいるではないか。

しばし体をもみほぐすが、男は言う。手を休めたまえ。
君は今、真剣に揉んでいたか。聞いていたのと違うではないか。
聞いていたのといいますと。
君はその手で、人妻をよろめかせたそうではないか。
よろめくって…三島由紀夫の「美徳のよろめき」っていうのは聞いたことがありますが。

「よろめかせてくれ」というワードがこの噺のテーマ。仮にテーマがあるとするならば。
「よろめく」というあまり用いない単語を、360度つつきまわした落語とでも言いましょうか。
私は「感染るんです」をはじめとする吉田戦車のマンガを思い起こした。
日本語の好きな人、というと変だが、好きな人にだけはこの感覚はわかると思うのだ。

男は、私をよろめかせてくれと絶叫する。
マクラからあえてぼそぼそ喋っている鯉白さんが、このシーンで大絶叫。
楽屋とテケツでは、この絶叫を聴いて苦笑しているわけで、そのシュールな状況がたまらない。

あってないようなストーリーを裏切ってくるところもこの人らしい。

たまらない一席でありました。
続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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