あかね噺第7巻(下・噺家の上下関係)

12巻セット

3日間現場のもようをお届けしたが、途中まで書いたあかね噺7巻に戻ります。

そういえば、「フラ」のアクセントについて。
以前「ミッドナイト寄席」という二ツ目を集めた番組のナレーションで、ハワイのダンスのアクセントで読まれていたのを思い出して。
「村」「裏」「蔵」と同じ平板ですので。
いっぽう「ニン」は、単体で使う場合は冒頭高で読んでもいいのではないか。
ただ少なくとも「ニンに合う」というときは平板に読むほうがそれっぽい。

そういえば、落語協会にも「フラ」のある芸人がいる。
キャリア浅い二ツ目の柳家小ふねさんはかなりのもんだ。作ってもいるだろうが、別にいい。

さて今日は、あかね噺7巻についていろいろつついていきます。

あかねとその兄弟子たちがそうめん食しながら話し合っている。
このほんわかしたやりとりは、一門のひとつのありようとして実にリアリティがあるなと。
そう思ったのはこの巻が初めてではない。
落語界をよく取材した空気が漂っていて、いいなと思う。
もっとも私だって現実の一門の日常なんて知るよしもない。それでもいろいろ読んで聞いて、なんとなくでき上がっているイメージはあり、それと離れていないということである。
「うちの一門はこんなに和気あいあいとしてない」という本職がいたら、たぶんその一門に問題があるのでしょう。

阿良川一門の二ツ目昇進基準が出ている。

  • 50席
  • 講談
  • 歌舞音曲
  • 寄席の太鼓

だって。もろ立川流。
現実の落語協会、芸術協会の二ツ目は、自動昇進である。
厳しい条件を満たせないと上がれない立川流が、勝手に押し出されて二ツ目になる協会の噺家より優れているならそれでもいいのだが。
真打昇進もそうだが、こんなところ厳しくても実のところ実力にはまるで反映されないですよ。
毎日寄席に通うほうがずっといいと思う。

兄弟子まいけるがあかねのことを勝手に「あかねる」と呼んでるの好き。説明が入らないところがいい。

前座練成会会場、江戸橋亭の前で一門の後輩と出くわすあかね。
阿良川嘉一は、30オーバーだそうだがあかねに敬語。これはまあ、当然。
劇中ではおじさんが出てるよなんて言われてるが、30の前座は別にそんなに特殊な存在ではない。
桂宮治師匠だって30超えて入門している。

ちなみに落語協会は現在、30歳までの入門に限るとされている。
高齢のポンコツ前座が増えて、楽屋仕事がままならなくなったからだとか。
落語芸術協会も、協会を見習って35歳までという制限を設けた。
立川流と五代目圓楽一門会(円楽党)はまだOK。
年齢を区切ることにも合理性は感じられるが、いっぽうで高齢入門者からもときとしてすごい人が出るのも事実。
立川寸志さんは44歳で入門し、現在57歳。
三遊亭好志朗さんは43歳で入門し、現在50歳。
二人ともかなり出世している。
もちろん、高齢で入門して当然のようにパッとしない人もいるわけだが。

練成会の高座で、なにをやるか考えるあかね。
転失気と山号寺号は(ツくので)ダメだとつぶやく。

すでに出た噺が、子ほめ、寿限無、つる、たいこ腹、まんじゅうこわい、元犬、のめる。
転失気は知ったかぶりの噺だが、ツくとしたら「つる」。でもつるは、過剰に知ったかぶりの演出ではやらないのが普通。
ただ、子供が出てくる噺としては、寿限無とツくかもしれない。
山号寺号は行けるんじゃないの? と思ったら、幇間がたいこ腹とツいていた。
あとは、「言葉遊び」という点が「のめる」にツくかな。遠い気はするが。
それで、あかねは教わったばかりの平林。もっとも子供が主人公なので、転失気と大差ない気はしたのだが。

ちなみに実際にこんな会があると、ひとりぐらい新作落語をやりそうな気がしてならない。
落語協会の前座だったら、寄席ではやらなくてもこんな会ではやると思う。
談志は新作嫌いだったから、阿良川流ももしかして新作嫌いの一門かもしれない。
もっとも談志の弟子で実力一とされる志の輔師は、新作のほうでも有名であるが。

落語マンガで新作をぶち込んできたら収拾つかなくなりそうではあります。

学生時代に闘った高良木ひかるも噺家デビュー。
からしもひかるも、あかねもみな本名で上がっている。そんな。
あくまでも私の希望だが、前座からは一度その人の属性を全部取り上げてほしいものである。厳しくしろという意味ではない。
NHKアナウンサーだった入船亭扇七さんも、前座のときに「なにでもなくなった」体験を語っていた。
一旦なにでもなくなってから、二ツ目になって自分自身を取り返せばいいじゃないかと思う。

ひかるがからしに、私のほうが先輩だからねえさんと呼べと。
いや、落語協会の場合だと、先輩後輩関係は楽屋入りで決まったはずだ。見習い期間が長い人も、その間は考慮されていない。
実は入門していたので私が先輩、はないと思う。
ただ芸術協会の場合は、入門のほうが優先されるようである。
芸協の芸人プロフィール、先日まで「楽屋入り」の日時は書かれていなかったと記憶する。

しかしひかるのやる噺が「搗屋無間」って。
山号寺号やお茶汲み、今戸の狐もかなり攻めてるが、これはマイナーさの次元が違う。私だってタイトルしか知らない噺である。
なんでこのマンガ、時として超珍品を引っ張ってくるのかな?

つついていたら長くなった。
7巻を上下に分けて取り上げているのは、なによりもまいけるの作った「仁と噺の属性を示す『噺六性図』」にいたく感心したからなのだ。
わざわざこういう架空の体系をこしらえて出してくる、そこが素晴らしい。
私もこんなオリジナル分類が大好きで、新たなサゲ分類など作っているから。

高校出たばかりで替り目かよ、とか、「噺はタイムマシン」ってなんだとかまだまだつつき甲斐はあるが、今日はこのくらいで。
あかね噺も、取り上げるペースをちょっと上げていこうと思う。

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(2024/9/12追記)

「フラがある」と「ムラがある」は同じアクセントだが、「裏がある」「蔵がある」とは違います。
「村」「蔵」「裏」とフラ、ムラは同じなのに。
すみませんご注意まで。
難しいですね。

 
 

作成者: でっち定吉

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