鉄ちゃん、鉄子たちは怒っているぞ! 一方的な知識披露、マウンティングに「ドン引き」
という記事を、ニヤニヤしながら読んだ。
被害にあった鉄子さん(鉄道好き女子)には気の毒だし同情もするのだが、この女子にわざわざマウンティングして去っていく男ども、そのバカぶりはハタから見ると実に楽しい。
鉄子さんのほうも、自分たちで勝手に楽しんでいれば、このテツどもと触れ合う必要は別にない。鉄道のコミュニティに参加しようとするからそこに化学変化が生じ、悲喜劇が生まれる。
まさに落語。
柳家小ゑん師匠の「鉄の男」の世界がまさにそこにある。リアルカゲッチ。
柳家小ゑん師匠は、テツだけではなく、人のあらゆる分野へのこだわりを、ちょっと角度を変えて笑ってみせる才人である。
笑い方に愛があるのが、新作派でも柳家らしい。変な人だな、と突き放しては終わらないのだ。
「鉄の男」も、テツの旦那や息子を持った主婦にはたまらない一席だろう。
昨年、鉄道落語会で聴いたこの噺が掛けられた会場(川崎市民ミュージアム)がまさにこうだった。
小ゑん師の新作落語には、鉄の男以外にも「男シリーズ」がある。
「顔の男」「セルフの男」「アクアの男」など。
アクアの男は、水族館の水槽でエサをやる女性に惚れたオタク男の噺だそうな。未聴だが、ぜひ聴いてみたい。
他にも下町オタクが出てくる「下町せんべい」とか、仏像大好き女子の「ほっとけない娘」とかオタクものは盛りだくさん。
落語オタクの男性のことも、ちゃんとマクラで扱っている。
男の世界に、女性が入ってくるといろいろ化学変化が起こる。そこに笑える情景も。
昔競馬ファンだった頃に、競馬場でよくそんな光景を見た。
競馬場は別に切った張ったの世界ではなく、そこそこ緩い。そこに女子が紛れ込む余地がある。
おじさんが若い女性を捕まえて、とうとうと「競馬って記憶のゲームやでえ」などと得意そうに論じているのを見たものだ。
まあ、どこでも同じ。おじさんは自分の体系そのものを語りたがる。
そしておおむね、自分がいかにオリジナリティに溢れているかを語りたがる。
こういうところがネタにもなり、実害にもなる。
落語の世界にも、リアルな聴き手として女子が進出してきて久しい。
ひとりで来ている女性も多い。
だが、アプローチしようとするおじさんもいるので、くれぐれも気を付けなければならない。
鉄子さんたちが怒っているというニュースを見て、以前読んだ記事が思わず脳裏をよぎった。
落語会に若い女性ファンがつく
↓
客席内で某オジサンが目をつけ、Twitterでその女性を特定。ツイートに頻繁にコメント付けたり、時には「この落語を聴きなさい」と動画のURLをDMで送りつけたりする
↓
ゆっくり一人で落語を楽しみたいその女性は、結局落語会に来なくなるそういう事があるみたい。
— 桂 米紫 (@beishi_katsura) June 14, 2018
上方の桂米紫師のツイートだが、いやはやである。
オタクは落語になるが、落語の世界のオタクは笑えない。
鉄道ファンの哀しいエピソードはそれでも、コミュニケーションを図るための場であった。
落語会に来た女性は、おじさんとのコミュニケーションのために来たわけじゃない。怖い。
営業妨害の落語おじさんにも、女性に対する露骨な下心とマウンティングがあるわけだ。
マウンティングは「人から尊敬されたい」という意識の表れだから、下心とはまったく矛盾はしない。
「人に上からものを教えたがる偉そうなおじさん」という文脈で捉える人もいるようだが、実際は恐らく、下心のほうがまさっていると思う。
みっともないことこの上ない。
そもそも落語というもの、他人と共感を覚える前に、極めてパーソナルな芸である。
個人の脳裏に浮かんだ情景や感覚は、その人だけのもの。共有はできない。
落語をデートに使おうと思っている人もいるだろう。だが、その性質からして、デート向きとは思わない。
わかりやすい、漫才主体の劇場とは違うのだ。
マンネリカップルならいいかもしれないが、付き合いたての頃から行くのはどうでしょうか?
お互いよほど興味があるなら別だけど。
私が勝手に心配するのは、こんな情景。
- 女が男に、わからないことを訊く
- 男が、わからないくせに必死で答える
- まわりの客がいらつく
マウンティング男というものは、こうして、女が作りあげていくケースもある気がする。
なぜ女は男に、なんでも訊くのか。
だってあんたのパートナーだぜ。そんなに賢いわけないだろう。
競馬ファンだった時代に、夫婦で来ていた客の奥さんが、パドックで旦那に訊くのを横で聞いた。
「ねえ、あの人たち(調教師)だれ?」
「(小声で)馬主だよ」
リアル千早ふる。どうせ適当なら、面白い嘘をつけば芸にもなるのに。
先日取り上げた林家つる子さんとか、演者が女性という場合も心配する。
知らないけど、おじさんファンの彼女たちに対する問題、結構いろいろあるんじゃないだろうか。
女流の噺家が自ら語るわけにもいかないだろうけど。
まあ、そんな無粋なファンを動員して自分の客にする、神田蘭先生やつる子さんは偉い。