春風亭一之輔「噺家の夢」

ネタ不足と体調不良で3日間ブログ休みました。
明日現場に出向いて再始動と思っていたが、ひとつできたので出します。

咳は医者に行って薬もらい、ややよくなった。なんらかの感染症に伴う副鼻腔炎が原因であり、春先に発症したものと同じようだ。
ようやく好きな季節が来たのだが、季節の変わり目は怖いものです。

ネタ不足のほうは「あかね噺」でも読めば容易に埋まったのだけども。
ただ実際休んでみたら、3日ぐらいではまるでアクセスは落ちないものだ。クセになっちゃいけないが。

金曜日に、上尾まで一之輔師を聴きにいこうと計画し、直前で咳のため自粛した。
そんなわけでその後も、一之輔師を産経らくご配信で聴いている。
つい最近の、三三師との会で出した「転宅」も聴いたが、ちょっとなんだかなと。
ギャグ入れすぎじゃないのかな。
といって、入れたギャグ(泥棒が名前のわからない小鉢をいつまでも気にしている)がつまらないわけじゃないんだけど。実際こんなのをコロナ前に寄席で聴いてたら、喜んでレビューしてたであろうことも間違いないのだ。
かといって当時と比べ私が落語文芸派に舵を切ったのかというと、そんな覚えもなく。
なかなか、一度ズレたものを合わせていくのは難しいのである。
感性の部分で拒絶反応があったとしたら、それはなんなのかと立ち止まってしまう。

と思ったら、ピタリ合った小品があったので。
アーカイブ、2020年の「噺家の夢」。
ちなみに「春風亭一之輔 噺家の夢」で検索すると、当ブログの「春風亭百栄 落語家の夢」もヒットする。
まったく違う噺ですので。かつて同じ会に出たそうで、アップされたネタ帳だけ見たことがあったけど。

「噺家の夢」のほうは、一応ほそぼそ引き継がれてきた古典落語らしい。
喜多八師に教わったものであろうか。
と言っても原典を知らないのに、一之輔師の噺は相当刈り込まれてできている、それはよくわかる。
結局現在の噺は、大部分作ったものではないだろうか。
まさかの夢オチなんだそりゃではあるが、でもこの卑怯さ、さほど違和感がない。もともとマジな噺じゃないから。

演芸図鑑では一度聴いた。
この配信では15分。
寄席でやっている様子はまるでない。むしろ寄席向きだと思うが、なぜだろう。

マクラは明日「9.11」から寄席の主任だという話。
911について喋りだすが、たぶん客が引き気味だったのだろう。引き延ばさない。
確かに、先代文蔵のお弔いの帰りにNYテロについて知り、「寄席は明日休みかな」では笑いにならない。
寄席に行ってもワリは安い、それでも私たちも、熱演しないように頑張ってます。
われわれ旅に行くもので、と振って本編。

噺家が度に出て、旅籠もないので一般宅に世話になる。
ここはなんもにゃーところ。
なりうぇえはなんだね。噺家です。あ、ひとりキチガイだね。

一之輔師得意の田舎者の造形が、たまらないなと思って。それで取り上げることにしたのだ。
落語には江戸時代から本質的に田舎への悪意があり、隠しきれていないわけだ。
だが悪意も何も気にせず、ストレートな田舎者を描くとこれがたまらなく面白いのだった。
悪意なんかどこかに飛んでいってしまう。
かつてNHKでやったとき、朝早い田舎の老人が観て怒ったとは思わない。怒った人も中にはいるかもしれないが。

一之輔師は、架空の田舎言葉をネイティブ話者として身につけている変な人。
アドリブ入れて、いくらでもスラスラ喋り続けられる。

田舎館野田雄(いなかだてのだお)

メシを食わせてくれるのはいいが、赤土や藁を入れた雑炊。これは「七度狐」でおなじみのベチョタレ雑炊だ。
もう謎のご難が始まっている。
漁師から魚を買い付けてきたらどうだと進められるので港へ行き、さらに話の通じない漁師に1銭出すというと、なんだか知らないが漁師たちが次々魚を追加してくる。そんな要らないと言ってるのに。
漁師たちは別に人がいいわけではなく、旅人をカモにする気まんまん。でも、貨幣価値の差の前にひれ伏すという。
1銭の持ち合わせがないので5銭出すと、何年か振りに祭りやんべえと大騒ぎ。

エスカレートするだけエスカレートさせておき、夢逃げ。なんじゃこりゃというくだらない噺が実にハマりました。
この噺1本でもって、「笑点に出てる一之輔ってのはこういう噺家だよ」とおおむね語れるのではないかと思う。

作成者: でっち定吉

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