26日土曜、神田連雀亭のあと、小川町から都営新宿線に乗って船堀へ。
図書館の前のバス停は「三角」。みすみかと思ったらさんかく。なかなかにいわれがあるようだ。
江戸川区の葛西図書館50周年の会だそうである。よその住民である私にはなんの感慨もない。
春風亭柳枝師が出るというので予約したのだ。
しかしどうやら、もうひとり出る「琉水亭はなび」さんのヒキなのだと思われる。落語ではなく、この図書館でイベントに出たことがあるそうで。
はなびさんに落語を教えているのが柳枝師で、その縁で実現したのだろう。
バイリンガル落語をやっているというはなびさんにつき、え、ゲストに素人が出るのと驚いた。
予約のときは柳枝独演会と思っていたので。
最近、アマチュア(プロ噺家ではないという意味)と一緒の会をよくかわら版で見かけるが、あまり興味を持ったことはない。
バイリンガル落語「反対俥」 | はなび |
時そば | 柳枝 |
(仲入り) | |
鹿政談 | 柳枝 |
はなびさんは、Google PixelのCMに出ていた人。ピンクの髪の女性。
消しゴムマジックで話題になったあの人とは別バージョンだが、同時に放送なくなったんじゃないか。
そうだとしたらとんだとばっちりだ。
しかし、1時間半の会で30分もやるとは。
15分で十分じゃない?
バイリンガル落語の反対俥である。外国人がやさしい英語でもって、俥屋(リキシャマン)に上野駅まで行ってくれというもの。
面白い、つまらない、うまいへた以前に、もう落語を聴くモードがなにからなにまですべて違っていて、入り込めない。
バイリンガル、というのがウリであり。お笑い芸人スキルでやってるわけでもなく。
私には感想を言いようがない。
ちょっと寝たし。
別にこの人の話術にケチをつけたいのではない。
他のお客はわりと楽しんでいたようだ。なにしろ俥屋が川を越えて葛西にやって来る。
私だってこの日のアンケートに、余計なことは書いていない。
だが、プロとまるでスタイルの異なる落語を聴くのは、なかなか大変なことだなと思った。
前座が一席語るのには全然慣れているが、別種の体系の話術を持っている人の落語には入り込むのが難しい。
単なる、慣れの問題なのだろうかなあ?
プロアマを必要以上に切り分けるのが本意ではないのだけど、でも結果としてそうなった。
落語の場合、キラキラした演者が得意げに一席、というスタートが、もう違うもんだ。
図書館スタッフに、あのお客さんつまらなそうにしてると思われたのではないか、心配。
演者からは見つからないよう、前の人の影に隠れて聴いていた。ヘンな気の遣い方。
図書館スタッフが高座返しをして、メクリを替える。
はなびさんがすればいいのにと思った。でもきっと、スタッフがやりたかったのだと想像する。
このあと柳枝師が2席、仲入り休憩入れて1時間。
これはもう、どちらも絶品でした。来てよかった。
楽しんでないお客がいるなと案じていたスタッフ(想像)も安心してくれたろう。
無料の落語会に惹かれる理由、自分でもよくわからないところもある。
いくら木戸銭無料といっても交通費も掛かるのに。
こういう会、特に図書館の会に来るお客は「文化」への造詣が深く、しかし落語そのものとは浅い付き合いの人だろう。
そんな日ごろと異なる席で演者がどう立ち向かうか、そしてどう成功したかを見ると、また来たくなるのである。
演者が初心者に向けてモードを変えている姿が、妙に楽しいということもある。どんな噺家でも、学校寄席に行くし、寄席と違うモードも持っているものだ。
そして柳枝師もそうだった。
新宿末広亭で一席やってまいりました。
このあとは神楽坂の会(天どん師と)があります。よろしければどうぞ。
まあ、やってることは同じですけど。
小噺を振って、今日のお客様のレベルを測りますなんてこうした席での定石。
今日の客は中の下だって。
どうでもいいけど、中の上、と言っとくほうがいろんな意味でいいんじゃないの? と思わないでもない。
人柄抜群の柳枝師だから全然成り立つけども。
一席めは時そば。
時そばは、こういうある種特殊な環境では特に、本当にいい演目だなと思う。
私もなんだか嬉しい。
そして、噺家の実力が露骨に出る怖い噺だと思う。
柳枝師、ギャグで笑わせるのではなく、シチュエーションを丁寧に描いて噺を膨らませていた。ますます嬉しい。
と言いつつ、オリジナルギャグもあるけど。
まずいそば屋の屋号は、「かわや」。川の上を矢が飛んでる。
マネしたい男は、俺は船堀駅前の文殊とかよく行くんだって。チェーン店だけど。
ただギャグの前に、1周目があまりにも素晴らしく。
これだけ、笑いなしに客を惹きつける時そばがあるだろうか?
ちょっとびっくりする。
笑いなしといっても、濃厚にユーモアは漂っている。
寒い夜に屋台のそばの湯気がかすかに漂っているなんて、そういう画になる描き方とは違うが、とにかくおしゃべり男がヨイショしてる姿から目を離せない。
おそばもおいしそうで、この日、夕食おそばにした人多かったんじゃないかと。
時そばは、ギャグを無数に入れ込む誘惑にも駆られやすい。
だが、1周目を堂々乗り切ったあとは、そんなに笑わせなくても勝手におかしいのであった。
ボンヤリした男が1文かすったのに気づくあたりはもう、丁寧な描写だけでフルスロットル。
続きます。