2024NHK新人落語大賞

遅くなりました。
土曜日のNHK新人落語大賞です。

速報を出す気マンマンだったのだが、今回はいつになくズッコケた。
春風亭一花さんの「駆け込み寺」が素晴らしくてこれはもう優勝間違いないなと思った。
ただ、その次の桂三実さんも注目株。
新作落語は創作力まで込みで評価されるのでこの大会では有利なのだが、でも三実さんに関しては昨年のほうがよかったなと。

私は春風亭一花さんのファンだけども、応援モード全開で見ているわけではない。そんなのはむしろ極力避けたい。
実際、昨年の一花さんへの評価は最下位である。
そして、最上位に評価したのこそ三実さんであった。
ちなみに落語を聴く主戦場が東京であっても、東西まったく平等に評価するが、これは当たり前のこと。

とにかく今回、この優勝候補二人に序列を付けたうえで、結果を楽しみにしていた。
なので結果にズッコケて、なにも書けなくなっちゃって。
昨年とワンセットにすると、よりずっこける。

結果から振り返ると、言葉遊び(早口言葉)という一つの体系で噺を作ってしまった三実さんの噺には高い価値があった。
それも当然に思えてきた。
それが見抜けなかったのも甘い甘い。
まあ、審査員だって結局最後は好き好きになる。人の人生がかかってるわけだから責任は重大だけど。

私は新作落語大好き人間と自分では思っているのだが、一花さんの「駆け込み寺」のように文芸的な領域まで飛び込む落語を聴いたとき、急に古典派に切り替わってしまうのかもしれない。
駆け込み寺のどこが文芸的なんだ、ただのバカ夫婦の噺だろと思う向きもありましょうが。
この噺は最近現場で聴いた。いいデキだったが、NHKに出すだろうとまでは思わなかった。
しかしながら、結果的にはいい選択だったかも。相手が悪かったに尽きる。
一花さんも、「惚れて惚れられて惚れられて惚れて」の言い回しが早口言葉もびっくりだったのだが。

でっち定吉総合得点
桂九ノ一942
鈴々舎美馬741
春風亭一花1046
桂三実848(優勝)
昔昔亭昇846
笑福亭笑利745

演目は、こう。

九ノ一天災
美馬死神婆
一花駆け込み寺
三実早口言葉が邪魔をする
やかんなめ
笑利天狗裁き

 

まあ、一花さんも決して点数差が開いたわけでもない。
三実さんへの私の採点、8点は低い。
なにが気に食わなかったかというと、早口言葉の状況をピタッと現実に合わせて行く際には、リアリティが欲しいなと思ったのである。
私は落語、特に新作の「飛躍」については大きな価値を見出している。ナンセンスな噺が、あり得ない状況へ軽々しく踏み込んで行く際は、どんなに現実を踏み外していても気にしない。
ただ、あり得ない状況にさらにあり得ない角度がついていたら、踏み外し過ぎではないかと思うのだ。
まあ、歴史的な名作になるかもしれない噺への批判の方向性としては、底が浅いということになるかも。

3位以下は、今年についてはなんでもいい。それが正直なところ。
ただ、昇さんの点数が高すぎ、トップバッター九ノ一さんの点数が低すぎる気はしている。
九ノ一さん、商店特大号の若手大喜利で観る声の大きな人というぐらいの印象で、高座は知らない。
上方落語もわりとチェックしている私だけど。
だが今回いっぺんに好きになった。
特に私が常日頃書いている、落語に出てくる暴力の扱いについて。
天災はかみさんとおふくろさんとをぶっ飛ばす、DV満載の噺。
これに正面から立ち向かい、お客に対して「引かないで欲しい」と頼んでから暴力をふるう、そのさまに惹かれた。

昇さんは、こういう場所ではかならずやるやかんなめ。Zabu-1グランプリでも掛けていたし、現場でも一度聴いた。
なまじ数回聴いてるだけに、今回のものがダイジェストに見えてしまって。
冒頭、やかんを忘れたくだりをばっさりカットしていた。
そして劇中ギャグが多すぎ、はじめてこの噺を聴いた客は展開を見失い、ついていけなくなったのではないかという気がする。
冒頭の客いじりもあまり評価しない。
まあ、再度聴いてみたら、この明るさは九ノ一さんに匹敵するものだという気もする。
お旗本と家来・可内の関係性も現代では好ましいものかもしれない。
昇さんは今後もチャンスあるだろうけど、やる演目はあるのかしら。

笑利さんについては、いまどき天狗裁きでは勝てないだろうと思う。
低い点数にしてしまったが、別に下手だなんて思ったわけではない。上手いのは知っている。

美馬さんは、前座として古典落語を2席聴いたことがあるだけ。いずれも特にどうという感想はなく。
今回は死神の改作だが、完全なる新作に比べたとき極めて中途半端だなと。
ジャンプネタを放り込んでくるのも悪印象。大会だぜ。
今回、ちょっと嫌いになったかも。
ちなみに予選に出た噺家が、「あの大会には『美人』女流枠がある」とマクラで語っていた。
わからないではないけれど、あんまり言わないほうがいいと思います。

今年は審査員が権太楼師に戻っていた。
またパワハラ気味の指導をするのかなと思ったが、もうやめてましたね。まあ、師匠にも思うところはあるでしょう。
そもそも今年からまた演者が6人に戻ったので、時間がないみたい。
そして審査員の評価、手抜きが少なかったのはよかった。
文珍師も、8から10の3点幅できちんと点数付けていた。鶴ちゃんだけ9と10で手抜き。ご本人いわく他の人に委ねたということだが、委ねないでいただきたい。

例年この賞レースについて3日間ぐらいはいろいろ書くのだが、今年は続きがあるかどうか。
お釣りがなくて。

作成者: でっち定吉

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