小満ん喬太郎よこはま落語会 その1(隅田川わたし「商売根問」)

土日のどちらかに出かけようと思うが、行き先はよりどりみどり。
渋谷らくご(一之輔師も出る)とか、東京かわら版には載らない「白鳥の巣」とか。
非常な激戦の中、梶原いろは亭のさん花・志ん雀・緑也・花いちという同時昇進組の会がいったん勝利を収めたのだが、金曜になってさらにでかい会が気になった。
土曜のよこはま落語会の昼席。小満ん喬太郎二人会。
まだ空席あるようなのでこれ幸いとメールした。
夜は雲助師の独演会だが、昼のほうが800円も高く、前売り4,500円もする。
先日咳が出るので直前に断念した文珍・一之輔二人会より高い。
吉野町というところは初めてだ。京急(南太田)で行けば交通費はまあまあ安く済む。

先日は鈴本主任に加え連日落語会で多忙の喬太郎師、急性胃炎で入院してらした。
志らく二人会とか博多とか、いくつか会を飛ばしたようである。
復帰後最初の仕事はもうあったみたい。
席が残っていたのもそのためではないか。
ところでこの会、東京かわら版掲載の広告によるといまだにマスク推奨なんて書いてある。
まさか実際にそんな運営ではなかろうが、あんまり世間を惑わさないでいただきたい。一応持ってくけど。

喬太郎師、私は今年4席聴いた。もうちょっと聴いていきたいところだが。
喬太郎師について書くと、「柳家喬太郎 演題」検索でほぼヒットするのが私の誇り。
4席のうち3席が、亡くなった馬遊師との会である。
小満ん師は、寄席以外で聴くのはまったく初めて。

そういえば昨日書くの忘れたが、日本シリーズの指笛事件に関し喬太郎師のコメント聞きたい。
スポーツ音痴だけどな。

早めに現場に着いた。事前に調べていたとおりなのだが、時間を潰すところのないさみしい街である。
地下鉄駅の近所に、イートインが2席だけのさみしいミニストップがあったので、ここで若干仕事をする。

びっくりしたが、本当にマスク着用義務があった。
だがどう考えてもこのご時世には理屈が合わない。
マスクを手に持って入場してみた。マスクをしたスタッフたち、誰も何も言わない。
開演前のアナウンスは「マスク推奨」になっていた。いや、推奨すらどうかと思うけども。

階段状の非常に観やすいホールだ、
後方に空席があった。

商売根問わたし
強情灸喬太郎
時そば小満ん
(仲入り)
つるつる小満ん
仏壇叩き喬太郎

前座は隅田川わたしさん。
顔は覚えてなかったが、二度目。前回も上手いなとは思った。

八っつぁんが隠居を訪ねてくる。おっ母さんが来てこぼしてったよから、「どこにいるんだい」以下延々と不毛な会話が始まる。
この会話が実に自然で驚いた。
八っつぁんは作為で、ウケ狙いでボケ倒しているのか、それとも天然なのか、どちらにもとれる。
こんな自然で楽しい会話、そうそう聞かない。二ツ目さんからだって。
そして隠居の喋り方は、あえてやや不自然に固さを残したもの。
師匠・馬石っぽい。師匠はナチュラルだが、作り込んている点において。

不毛な会話は、「米屋の払いは」「踏み倒す」のあともさらに続いている。あまり聞かないやり取り。
手職はあるのかと訊かれた八っつぁん、まだまだボケ続ける。
普通の若手がこれだけやったらダレるはず。
わたしさんはウケ狙いに行かないので、楽しさがいつまでも続くのだった。

このくだりがあるのは「鷺とり」だが、細部が充実しているので、これは鷺へは行かない「商売根問」だなと思う。
珍しいが、いかにも前座噺という感じで、好きなんだ。

雀とりから、鶯とり、カッパとり。
このくだりは上方落語では聴くが、東京では珍しい。
江戸前のあっさりした笑いで、ずっと楽しませてくれる。
いや、すごい。
最初に焼酎漬けの米をついばみに来るのは江戸っ子雀だった。
この徹底して軽い描写がもう、クセになる。
若手どころか真打だって、このあたり必要以上に頑張っちゃうもんだが、どこまでも軽い。

八っつぁんは、商売のネタを思いつくまでは才能豊かなのだ。
隠居もそこまでは非常に感心している。
だが肝心のところで踏み外すのだ。
隠居が途中までの説明を聴いて、「普通だね」。なんでもないセリフでどっとウケるのは、客全員が抑揚のない会話を非常に楽しんでいるからだ。

客の前に、隠居自身がイラついたりせず楽しんで聴いている。でもそんな描写を入れたとたん、楽しい会話は泡のように消え去るであろう。

鶯やカッパは、アホの喜六が思い浮かぶところ。カッパ釣ろうとして川にハマり、ようよう上がってカッパに、間違えられるなんて、まさに上方落語。
これを東京の言葉とスタイルでやると、単に笑いの量だけ低下してしまいかねない。
でも、独自の体系に乗ったわたしさんの落語は、静かな会話でもってビンビン響くのだった。

楽しみな前座さんが現れた。
たぶんいずれ、この抑揚に乏しい落語に、新たな武器を乗っけてくるだろう。
師匠のように。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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